―守り―
場所は変わり、イングヴァ―牢内。
窓は小さい。入り口も閉ざされているため、本当に薄暗い。
レイズたちは、団長と共にイングヴァーの牢中で守りを固めている。
牢の外観は他のダミーの牢と変わらない。違うのは、圧倒的強度。
待機スペースはあるが、あくまでメインは牢獄。それに、他の牢と外観を揃えるために、広くは作っていない。
そんな狭いスペースに、レイズたち6人と、団長が待機している。
「…………」
気が滅入りそうな空間だ。
それに、いつ敵の襲撃が来るかの不安感・緊張感がある。
レイズは落ち着かないのか、その辺をウロウロしている。
マリナは隅で膝を抱えて座っている。視線は、牢の壁に向いている。
「……ここ、崩れないわよね?」
「一応、地龍使いが協力して作った牢ですが……」
レイラは回答を濁す。正直断言できない。
当然、多少の衝撃では崩れない作りになっている。それでも、敵が本気で龍力を解放すれば、どうなるか分からない。
レイズたちに地龍使いはいない。そのため、これが騎士団の限界だった。
他の団員や隊長たちは、メインの牢獄内で守りを担当している。
フル・ドラゴン・ソウルクラスの敵と対峙する可能性が高いのは、ここだ。
そのため、下っ端であるが、中枢に配置されているのだ。
敵が現れた際に対応するのは、基本的に四聖龍だ。
だが、敵が牢まで来た際には、四聖龍と協力してイングヴァーが奪われるのを防ぐ役割がある。
イングヴァーは眠らされ、今は大人しい。
龍鎖も何重にも巻かれ、龍力自体は本当に弱い。
問題なのは、彼が敵の手に落ち、龍鎖が解かれたときだ。
ただでさえ、犯罪者が何名も敵の手に落ちている。それに加え、イングヴァーの強さが乗っかるのだ。
レイズたちは彼の強さを知らないが、雰囲気だけでも危険だと判断できる。何としても阻止しなければならない。
「殺せば?」とバージルは思うが、この国には死刑が存在しない。
そのため、牢獄で延々と彼のお世話をする必要がある。
バカバカしい、と彼は思っているが、誰もそのことに言及しないし、そんな雰囲気でもない。
と、龍力の乱れが全員に伝わった。
「!!」
「おい、これ」
「……始まったわね」
仲間たちは次々に呟く。
レイラにも緊張が走る。
(シャレムさん……頑張ってください……!)
クラッツは荒ぶる感情を抑え、できる限りどっしりと構えている。
ここで龍力を乱せば、敵が察知してくるかもしれない。
それに、騎士団トップの自分がここで慌ててしまえば、レイズたちにもそれが伝わる。
実力はトップではなくなってしまったが、団長が冷静であれば、彼らも安心だろう。
(乱すな。ダミーはある)
団長の雰囲気にリゼルも習い、冷静を装う。
部隊内では自分とレイラが実力トップだ。
真面目すぎ、考えすぎるレイラは不安を隠せていないようだが、自分は違う。
部隊内で指示を飛ばすことも多いリーダー的ポジションなため、少なからず他のメンバーは自分を見ている。
だから、乱さない。
「……加勢しなくて本当に大丈夫ですか?」
不安感か、レイラはリゼルに聞く。
「あぁ。四聖龍の強さを見ただろ。僕たちは邪魔になる」
「まぁ……そうなのですか……」
「心配か?」
バージルはレイラを見る。
「少しだけ。『あの時』のシャレムさんの力……フリアよりかは小さかったから……」
「マジか!?いつのだ!?」
レイズは大声を上げてしまう。慌ててイングヴァーを見るが、起きる様子はない。
彼女は言う『あの時』とは、顔合わせの時らしい。
「えぇ……あれが全力ではないとのことだったので、気にしないようにしていたのですが」
「それは僕も思っていた……同じ理由で言わなかったが」
「…………」
団長は黙ったままだ。心なしか、顔が険しくなっているようにも見える。
四聖龍よりも敵が強いとなると、もう本当に打つ手がない。
「四聖龍には言ったの?」
マリナは恐る恐るレイラに尋ねる。彼女は首を横に振る。
「……いいえ。あの方たちには、絶対的な自信があります。それに、あの場の龍を見ての判断です。不確定要素がありすぎましたので……」
「そう……」
四聖龍も敵も、力の底は未知数だ。
彼らの力は、敵に通用するのだろうか。
(負けないで……!)
レイラは手を組み、四聖龍の勝利を祈るのだった。