―敵の目的―
シャレムが敵の女と相対した同刻。
ハーゼイとウィーンも彼女ほどではないにしろ、敵の気配には気付いていた。
そのため、移動を開始していた。彼女を誘わなかったのは、四聖龍が固まるのはそれはそれで防御が薄くなるからだ。
そのお陰で、メインの監獄で騎士団と敵の女がぶつからずに済んでいる。
「……イングヴァーだけは死守しようかの」
「あぁ。だが、イングヴァー以外にも手練れはいるぞ」
「護送中の様子は見たじゃろう?イングヴァーだけは別格じゃ。他も厄介ではあるが、ワシらがいればどうにでもなる」
「……ふん」
イングヴァーだけは別の建物内に収容している。
そちらへ向かおうと走っていると、ウィーンが急に足を止めた。
混沌とした気配が急に強くなる。
「……おい、じじい」
「失礼な奴じゃな。分かっておる」
道の脇の高台。
ウィーンたちの目線の先には、黒髪で長髪。全身黒コーデの男が立っていた。
「あ~らら。バレちゃったか」
男は焦ることなく、木々の間から二人の前まで下りてきた。
「資料にあった男じゃな。フリア……と言ったか」
「お?俺も有名人か。なら、『俺の過去』も知ってんのか」
「興味がないな」
ウィーンは冷たく言い放つ。
だが、ハーゼイはフリアの発言に少し引っかかっていた。
スゼイとか言う男もそうだが、なぜ敵は自分の名を明かすのか。それも、先程の口ぶりから、偽名ではないと思える。
ふむ、と考えようとした瞬間だ。シャレムの龍力が跳ね上がった。
ハーゼイは、杖を加工し、刃を付けた剣を構える。剣の柄が杖になっている、変わった形の武器である。
この武器のお陰で、接近戦も十分に戦えるようになっている。
「……シャレムの龍が跳ね上がった」
言われなくとも分かる。
龍力の乱れ。龍圧。彼女の光がビリビリと伝わってくる。
「あぁ。あっちも忙しくなりそうだ」
「その様じゃな。お前さんや、あそこにいるの以外にもいるのかの?」
「どうだかな。いると思うぜ」
ハッキリとは言わず、はぐらかすフリア。
薄気味悪い余裕の笑みが浮かべられている。
「……四聖龍は三人。とすると、三人は最低でもいそうじゃな」
「……同感だ」
敵が四聖龍の存在を知っており、かつ、一対一を望んでいる前提ではあるが、最低でもそうなる。
「目的はなんじゃ?」
「イングヴァーが欲しいってさ。貸してくれよ」
「……断る」
「~ってさ」や「貸して」という表現に引っかかる。だが、答えは決まっている。
奴だけは外に出すわけにはいかない。ウィーンはその提案を却下する。
「ふ~ん……?」
それでも、薄気味悪い笑みを変えないフリア。
「どうする気じゃ?イングヴァーの場所は知っているわけでもあるまい?」
「それな。メインの建物の他に、ダミーなのか、小さな牢もいっぱいある。まぁ、アンタらの様子を見るに、イングヴァーはそっちなんだろうけど」
フリアは道の先を見る。
それでも、建屋の数は多い。騎士団が地龍使いと協力して作った仮の牢だ。
『敵の目を誤魔化すのに良い』との判断である。
「……姿を見せなければ、場所を掴めたじゃろうに」
イングヴァーの牢まで彼が隠れていれば、そんな回りくどいことをしなくても済んだ。
姿を現した理由が分からない。
「それなー……イングヴァーも重要なんだけど……」
フリアは刀を抜く。
「俺個人としては、アンタらと戦いたいんだわ」
闇のオーラが彼を包む。
戦いが、始まる。