―二本の剣―
明確な敵意でも、殺意でもない。
ただ、凛としてそこに存在し、周囲を引き寄せない『壁』を感じる。
敵意・殺意は感じられないが、好意的な感情もない。
ただ、冷たくそこにいる。そして、目的のためなら殺しも簡単に行う。そんな気配だ。
こちらの背に回ったアドバンテージを活かすつもりがないのか、一向に攻撃を仕掛けてこない。
まぁ、自分レベルであれば、背後から攻撃されても容易に対処できるが。
いいだろう。その面、拝ませてもらおう。
「…………」
わざとらしく、ゆっくり振り向く。そこには、自分と同じか、やや下くらいの女性がいた。
白衣に、紅色の袴。ただ、その白衣は肩が剥き出しのデザインだ。女から見ても、セクシーに思う。
そして、自分と同じ金髪。ハーフアップスタイルで、髪を留めている。
茶色い瞳は、底がないほどに濃い。その瞳で、どんな世界を見てきたのだろうか。
腰には、種類の違う二本の剣が見える。しかも、片手で扱うには重そうな剣が。
「ふぅ……」
彼女は、どこかスッキリした顔を見せる。
登場の仕方が、霧の間から出てきたように思えた。なるほど、龍の仕業か。
「アンタ……」
嫌な気配は相変わらずだが、違う。
元凶は、こいつじゃない。
(……複数いるわね。というか、こいつ……アタシとキャラ被ってるわ)
金髪。スタイル良し。メイン武器が剣。
髪型や服装は異なるが、お互いがお互いの真似をしても、しばらくは気づかれなさそうだ。
と言うか、ハーゼイとウィーンは何をしている?他の敵とでも遭遇しているのだろうか。
ただ、助けを呼ぶのは自分らしくない。一人でも、戦える。
「念のため聞くけど、観光じゃないわよね?」
「……えぇ」
しらばっくれるかと思っていたが、意外にもすんなり答える女。
「……目的は?」
「イングヴァーを貰いに」
「!」
ここに護送した犯罪者の中で、最も危険な男。
渡すわけにはいかない。
「拒否するわ。全力でね」
「……残念」
女は肩を落とす。
外見だけで言えば、か弱い女性の部類に入るだろう。
堂々としている風でもないし、どちらかと言えば、自信なさげである。
しかし、それは外見だけの話。
自分のように、内面まで見ることができる人間には、そう映らない。
揺るぎない強さ。凛とした龍力。
秘めた力がひしひしと伝わってくる。
非戦闘時でこのレベルだ。戦闘開始時には、どんな変化を見せてくれるのだろうか。
「ここで潰してあげるわ。四聖龍の名に懸けて」
「……いいえ。貴女が負けるわ」
「!」
ハッキリと言いやがった。こちらが負ける。と。
冗談やハッタリを言っている顔ではない。未来でも見えているかのようだ。
「だから、大人しくイングヴァーを渡して」
「お断りよ。それに、アタシは強いから!!」
言い終わると同時に、シャレムは地面を蹴る。
彼女が蹴った地面にヒビが入り、一部分が抉れる。凄まじい脚力だ。
「はぁッ!!」
龍力を一気に高め、剣を振る。
「!!」
地面を蹴り、剣を振るまで二秒もかかっていない。だが、女は二本同時に剣を抜き、シャレムの攻撃を防いだ。
刃と刃が激突し、龍圧を生む。
(へぇ……やるわね)
攻撃を防がれただけなら、驚きはしない。
戦闘前から内なる強さは見えていたし、今の攻撃は力試しだ。敵の力量を計る程度の龍力しか込めていない。
(で、あの剣……)
問題は、敵が扱っている武器だ。
普通の使い手なら、両手で扱う剣を、片手で。それも、二本同時に使っている。
(……状況に応じてって訳じゃないのね)
本気ではないが、それなりの力で攻撃している。
瞬間的に龍力を高めたにも関わらず、女はその速度と龍力に対応してきた。
この女、本当に強い。シャレムは気合を入れ、戦いに臨むのだった。