―彼女の実力―
四聖龍が揃い、やっと座れるレイズたち。
横で、レイラが小さく息をつく。
「憧れでしたのに……」
「…………」
有名人に憧れの感情がないリゼルは、その感情が理解できない。それに加え、この状況だ。
ただ黙って様子を見ていることしかできない。
彼女は、あのポスターを思い出し、少し気を落としていた。
自慢のスタイルの良さを活かしたポーズ。見るものの時間を止めそうな笑顔。また、笑顔眩しい写真だけでなく、クール系の表情も様になっていた。哀愁漂う、切なそうな顔も。
全世界の女性の憧れの存在だったはずなのに。
写真で性格までは分からない。
しかし、こんな横柄な態度で(騎士団上層部限定とは言え)人前に出て、彼女へのイメージが崩れないだろうか。
マネージャーは、彼女の性格のことを知っているのか。
(落ち込んでんな……つか、あいつ)
というか、そもそも、彼女は『本物』なのか?
レイラの落ち込み様に、レイズは密かに思う。モデルとやらに龍力を扱う技能が備わっているとは思えないが。
(偽物……?だとしても、やる意味がないか……)
彼女は世界中に知られている。
よって、潜入から最も対極にいる存在だ。
愛想を振りまいて中に入るならまだしも、横柄な態度で空気を悪くするようなら、尚更向かないだろう。
(分からん……イラついているだけか?)
憧れの人のイメージと、実際のギャップ。それを見てしまい、落ち込んでいるレイラ。
マリナやミーネは何も言わないが、難しい顔をしていた。少なからず、思うところはあるらしい。
「で、要件は?イベント後で疲れてるんだけど」
呼んでいた有名人に、彼女もいたらしい。
すでに一仕事終わった後のようだ。イラつく気持ちも分からなくはないが。
「は、資料を……」
「見てる暇ないわ。説明して。簡潔に」
シャレムは資料を乱暴に机に放る。
「ッ……!!」
資料は何ページにも渡っており、取り上げているテーマも異なる。
簡潔に説明するのは無理だ。
あわあわしていると、シャレムは冷たく言い放つ。
「言えないの?使えないわねぇ……」
「……申し訳ございません」
進行役は謝ることしかできない。
進行役はあくまで進行役だ。騎士団で地位は上でも、起きていること全て理解し、伝えられるわけではない。
「……いい加減にしろ。四聖龍の質が下がる」
初老の男は口を開く。
「誰よ。アンタ」
「西を担当しておる、ハーゼイだ。小娘、お前は?」
「……アタシを知らないの?世界的モデルのシャレムよ」
「……四聖龍だけでなく、モデルの質も下がる……それに、ここにいるのは、お前さんのマネージャーじゃない」
「っさいわね……」
ピリ、と空気が張りつめる。
「『北』と同じにしてあげましょうか?」
「フン、お前さんには無理じゃな」
シャレムの怒気を込めた視線を交わし、笑うハーゼイと名乗る男。
彼は、彼女から男へと話を振る。
「黙ってないで、お前さんも名乗ったらどうだね?」
「……オレはウィーン。東の担当だ」
「ってことは、小娘が南か」
「えぇ。そうよ。何?」
「南……王都も担当だったな」
「そうね」
「だが……お前さんにそんな力があるとも思えんがな」
「…………」
レイズ含め、多くの人間が思っていたことを、ハーゼイは口にした。
「もっと言え!」と思ったのはレイズだけではないだろう。
「……アタシのパパが四聖龍だったの」
それを聞き、妙に納得するような顔を見せるハーゼイ。
「ほう。南の四聖龍は光龍だったな。お前さんも?」
「えぇ。パパの龍を引き継いで、四聖龍も引き継いだわ」
「龍を引き継ぐのは自然じゃが、四聖龍の力があるとははやり思えんが」
そう。
以前、龍力を得るには、試験に合格するか、『亡くなる』人間から引き継ぐかの二択しかなかった。
引き継ぐ対象は、家族だ。例外はない。
ただ、だからといって『実力まで引き継げるか』は別問題なのだ。
シャレムはため息をつく。
どいつもこいつも、人を見た目で判断しやがる。
「はぁ……見せればイイんでしょ?」
彼女は感情の高ぶりが収まってきたのか、ただ感情をぶつけるだけの返答ではなくなっている。
「……この資料には、フルのことが書いてあったわね。よくたどり着いたものだわ」
シャレムは席を立つ。
少し歩き、何もないスペースまで移動した。
(……マジか)
(四聖龍の力が見れる……!?)
四聖龍の実力が見れる。隊長たち、レイズたも息を呑んだ。
邪魔しないよう、静かに見守る。
「ッ!!」
声にならない気合を入れるシャレム。
その瞬間、爆発的に力が跳ね上がった。
(すっげ……!)
自分たちと全然違う力の引き出し方だ。
レイズたちは、徐々に龍力を上げて、それを定着させている。
だが、彼女の力の上昇スピードは、レイズたちの比ではなかった。
これが良いのか悪いのかはレイズには分からないが、力のマックスまで一瞬で出せるのはメリットの一つだろう。
「うわ……!」
「揺れる……!」
力の上昇に伴い、ドン、と部屋が大きく揺れた。
部屋の窓ガラスはきしみ、今にも割れそうな音を立てる。
「……!!」
彼女を纏う龍力、発される龍圧。全てが自分たちを大きく上回っていた。
生み出される風で衣装がはためき、スラリと伸びた脚が見え隠れする。非常にセクシーだ。
隊長たちは、龍力よりもそちらを見ていたかもしれない。
「下げるわよ」
一応言うが、四聖龍以外の耳には届いていない。
しかし、お構いなしに彼女は徐々に龍力を下げていく。力は十分示せただろう。
「ふん……」
「……ほう。流石じゃな」
「あぁ。言うだけある」
ハーゼイとウィーンは驚かないが、一定の評価を示している。
室内でこの龍力。
屋外で、実際の戦闘ではどれくらいの龍力を解き放つのか。想像もつかない。
「……これで分かったでしょ?四聖龍の名前に恥じない力は身につけているつもりよ」
「あぁ。お前さんも、本物だ」
ハーゼイの『本物』との言葉に、彼女は微笑む。
第一印象は最悪だったが、今は最初のとげとげしさは感じない。
嫌な一面を見てしまった部分はあるが、それで彼女を全否定するのは時期早々のようだ。
「……話に戻りましょ」
「そうだな。始めてくれるか?」
ハーゼイは進行役に合図した。
「では、始めます……」
圧倒的力を見せつけたシャレム。
四聖龍の力は本物だ。これならば対抗できる。
期待が高まった状態で、会議が始まった。