―四聖龍の顔―
長かった休暇だが、過ぎ去ってしまえばあっという間だった。
四聖龍の返事は「オーケー」で、顔合わせのため彼らが騎士団本部に来る。その連絡を受け、レイズは大急ぎで王都に戻っていた。
「おっす」
「おう、ゆっくりできたか?」
「まぁ、ボチボチだ」
「では、行きましょうか」
レイグランズ城で仲間たちが集合した後、騎士団本部へ移動するレイズたち。
今日の騎士団本部は、人が多い。
理由は、騎士団本部見学会と合わせたためだ。
普段の日に行えば、騎士団の制服を着ていない見慣れない人物がうろついていては、非常に目立つ。
四聖龍の正体が割れてしまわないために、工夫しているのだ。
「出店まで……お祭りかよ」
騎士団本部の出入口では、食事や騎士団御用達の道具武具の屋台が出店していた。
「一応、交流の場の意味もあります」
「なんだ。信頼がどうとか言ってたけど、人の出入りはあるんだな」
「まぁ、それとこれとは別、ってヤツじゃない?」
騎士団への信頼が薄いとはいえ、こういうイベントに人は集まる。少しでも人を集めようと、有名人も騎士団パワーで呼んでいるらしく、それの効果もあるようだ。
ここまで人が集まれば、四聖龍サイドも安心だろう。
仮に敵が侵入しても、四聖龍が三人も集まる。むしろ来い、という心構えだ。
「行くぞ。急げ」
「あいあい」
所変わって会議室。
(すげえメンバーだな)
レイズは素直にそう思った。彼のように、騎士団組織をよく知らなくても分かる。隊長クラスが何人も集まっていた。彼らの表情は固く、緊張しているのが目に見えて分かった。
アーロンが来ているか探したが、いなかった。基地の全ての隊長が来ているわけではなさそうだ。
レイズたちが案内された所より少し離れた場所に、席が三つ置いてある。
(あそこに四聖龍が座るのか)
約束の時間まではまだ少しあるが、誰も到着していないらしい。
ドア付近に立っている進行役の団員は、不安そうに時計と廊下を見比べている。
「未だ信じられないな。本当に来るのか?」
ぼそ、と小さい声でバージルに言うレイズ。
「……俺が知るかよ……黙ってろ」
静まり返った場所では、いくら声を落としてもけっこう聞こえる。
バージルはそれが嫌なのもあり、レイズとの会話を打ち切る。
「…………」
約束の時間まで、あと三分。
と、進行役の団員が廊下に向かって頭を下げた。
到着したらしい。
(来た……!)
ドド、と隊長たちは一斉に席を立つ。
先日の報告会とは態度が大違いだ。
それだけ緊張しているし、頼りにしている。そんな存在なのか。改めて四聖龍の肩書の強さを認識する。
(感心してる場合じゃねぇ!)
レイズたちも、慌てて隊長たちに合わせる。
部屋に入ってきたのは、背が低い初老の男と、クラッツとそう年齢が変わらなそうな男。
初老の男は白髪交じりの髪をオールバックにし、マントを肩に羽織っている。
(本当に来た……!)
初老の男は、部屋をぐるりと見回すと、「ふぅ」とため息をついた。
それが何を意味するのかは分からないが、何故か馬鹿にされた気分になる。
比較的若めな男は、茶色い髪、ワイン色のジャケットを着ていた。
男目線から見ても、顔立ちは整っていると思う。
他にはこれと言って特徴はなく、その辺ですれ違っても気づかないレベルだ。
逆に言えば、四聖龍と言われてもバレなさそうではある。
「あれ……?二人か?」
三人目は入ってこなかった。
四聖龍の二人は特に発言することもなく、用意された椅子に腰かけた。
(感じ悪いな~……)
レイズは素直にそう思うが、なるべく顔に出さないようにする。
ここで四聖龍と問題を起こすのは、自分たちにとってメリットは一つもない。
戦闘がおこるわけでもないのに、緊迫した空気が流れる。
静かすぎて、唾を飲む音すら周囲に聞こえてしまいそうなレベルだ。
「…………」
騎士団サイドの面々は、この沈黙の中、立ったまま最後の四聖龍の到着を待つことになる。