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龍魂  作者: 熟田津ケィ
ー裏任務ー
185/689

―兄の行方―

感情が落ち着き、家に戻ったレイズ。

彼のどこかスッキリした表情を見て、レーヌは安心したように口角を上げていた。


「ご飯、できてるわよ」


母と久しぶりの昼食を取ったあと、レイズは母に兄のことを聞いてみた。


「兄貴は……スレイは帰ってきた?」

「え?……戻ってないわよ?」


その名前が出るとは思っていなかったような表情だ。


「そう、か……」


グリージに戻ったかと思っていた。しかし、いない。

これで、完全にスレイの行方が分からなくなってしまった。


「……何かあったわね」

「うん、まぁ……」


レイズは話した。

旅の途中で、シャンバーレに寄ったこと。

そこで、数年ぶりに兄スレイと再会したこと。

兄との会話のなかで、どうしても許せなかった一言があり、ケンカっぽいことをしたこと。

そのことが数日引っ掛かり、スレイの住む部屋に行ったとき、彼はその部屋を引き払っていたこと。

自宅に戻ったと思っていたが、ここにはいなかったこと。


「そう……」


レーヌは悲しそうな顔をする。

当然だ。突然家を出たと思えば、今度は行方不明。


「これ、あの子から定期的に送られてくるの」


レーヌは引き出しから封筒を取り出す。

中には、大きな金額のお金が入っていた。


「これって……!」

「もちろん、使ってないわ。いつかあの子に返さないとって思ってたの」


額を数えるなど無粋だ。レイズは手に取ることさえしなかった。

一回でどれくらいの額を送っているのかは不明だが、一年二年で貯まる金額ではなさそうに思える。

グリージを発ってからの数年、彼は勉強に仕事に、そして仕送りに時間を使っていた。


「働きながら勉強して……それでもダメで……ってことかしら……」


レーヌは、本当に悲しそうな顔を見せる。

その顔を見て、レイズは体温が急激に下がった気がした。

スレイの話をしてからは緊張状態であったが、今ので一気にストレスが張りつめた。


「……俺のせいだ」


あの時話したスレイは、家に仕送りをしていることなど、一言も言っていなかった。

働いていることすら知らなかった。家にいた頃のお金や、父のお金でやりくりしていると思っていた。


「あなたは悪くないわ」

「あいつの苦労を何にも知らないくせに……聞き流せばいいのに……腹を立てたせいだ……」

「あなたはあなたで正しいことをした。仲間のために、スレイに怒ったんだから」


カッとなって、スレイの背景を見れなかった。

だが、スレイはスレイで自分たちの背景を見れていなかった。

見える部分だけを見て、全てを決めつけてしまった。


「でも、あいつは……」

「でも、今はそれが分かったんでしょ?」

「うん……まぁ……」

「だったら、あなたはあなたの道を行きなさい。あの子のことは、わたしが何とかするから」

「何とかって……」


実際、レーヌに手は思いついていない。

ただ、レイズの不安を取り除くことを最優先に思った結果、先ほどの言葉が出たのだ。


「とにかく、あの子のことは、一旦忘れなさい。あなたには、進む道があるんでしょ?」

「う……まぁ、一応……」


クラッツやレイラたちに、訳も分からぬ感情をぶつけたことを思い出す。

騎士団を辞めるとも思いかけたことは、隠しておこう。この流れでは話し辛い。


「なら、わたしはそれを応援するだけ」

「うん……分かった」


与えられた日は数日と長くない。が、レイズはギリギリまでグリージに滞在し、リフレッシュすることにした。

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