―謝罪―
「……ただいま」
家に帰り、レーヌに挨拶をする。
母は昼食の準備をしているところだった。
「レイズ!!」
一瞬驚いた表情を見せるレーヌ。が、すぐに笑顔になる。
「おかえり!戻ったのね」
「うん。すぐに出るけど」
彼の厳しい表情に、どこに出るのか何となく察するレーヌ。
だが、口は出さない。自分にできることは、変わらずここで『母』をすることだ。
「お昼は?」
「……いる」
久しぶりの実家。
本当に懐かしい。あの家具も、この空気感も、あの時のままだ。
自分の部屋も、あの日のまま。何も変わっていない。
レイズは荷物を部屋に置き、サザギシの家に向かった。
(怖いな……)
気にしてない、と聞いているが、心の底では恨まれていそうだ。
「あれは……」
村の連中が声をかけたのか、サザギシは家の外で周囲をキョロキョロしていた。自分を探しているのだろうか。
長袖の上、長パンツで、皮膚が見えていない。ただ、あの時の火傷の跡はなさそうに見える。
彼の様子を観察していると、サザギシがレイズに気づいた。
「おう!レイズ!」
表情は固いが、あの声。サザギシだ。
「……ごめんなさい!!」
「え!?……は!?」
サザギシと目が合った瞬間、レイズはその場で土下座した。
他の村人が一斉にこっちを見る。
「おいおいおい!何やってんだ!?お前は!?」
サザギシが近づき、レイズの肩を叩く。
「そんなことしなくていい!!恨んじゃいねぇよ!!」
だが、レイズは頭を上げない。
溢れ出る感情を抑えられない。身体は震え、涙が止まらない。
「俺は……俺は……!!」
「く……!!」
サザギシは、村人の目が気になって仕方ない。
あの日の直後はレイズのことを悪く言ったりしたが、それは、大火傷を負った自分と、この先の生き方を受容できなかった弱さからだ。
わざとじゃないことは様子を見れば分かるし、レイズがいたずらにそんなことをする人間ではないことを、サザギシは理解している。
それに、傷は光龍のお陰で完治した。エラー龍力者のことを知ってからは、恨みつらみの感情は消え失せている。
「頭、上げぇや……」
本当に恨んでいないのに、気にしないで生きてほしいのに、レイズは土下座してしまった。
これを見れば、彼がどれだけ悩んでいたのか分かる。
どれだけ大きな心の『しこり』を残していたのか分かる。
「もういい……それだけでいい……俺は、お前の足枷にはならねえ……」
レイズが子供だった頃を思い出す。
悪さをして叱ったあと、彼はいつも肩を撫でながら穏やかな声をかけていた。
大きくなった今、またこんなことをするとは思わなかったが。
(サザギシ……ありがとう……!!)
額を地面に付け、涙を流す。そのまま、両拳を強く握りしめる。
彼の言葉。レイズはそれが嬉しくて堪らなかった。
本人から聞けたのもあるが、今もこうして受け入れてくれている。
一時は周囲の目からグリージに居づらくなったが、今はそれもない。自分の帰る場所がある。
龍魂に全て奪われた人生だと思っていたが、一つ、彼は取り戻した。