―帰省―
レイズは、この休みを利用して帰省することにした。
他のメンバーも思い思いに過ごすようだ。休みになったにもかかわらず、レイラとリゼルはマナラドに出入りしているらしい。
バージル、マリナ、ミーネの三人は王都に残るようだ。支払われた給料を有意義に使い、リラックスするらしい。
王都から船でミナーリンまで行き、そこから山を登るルートである。
以前は騎士団の飛行艇だったため、船旅は長く感じた。当然だが、一人での帰路のため、話し相手もやることもない。
それが余計に時間の経過を遅く感じさせているのだ。
「……zZZ……zZZ」
そのため、基本寝ていた。
目の前に広がる大海原や、無限に広がる青い空を甲板から見ることもなく、風を感じて海鳥と戯れることもなく、ひたすらに眠っていた。
まぁ、どうせ王都に戻る際も同じルートだ。風景に拘る必要はない。
ミナーリンに到着し、町の外に出るレイズ。
(懐かしいな……)
この辺で、バージルと二人で特訓した。
数か月前の話なのに、年単位で前の出来事な気もする。
山に差し掛かると、懐かしい自然の匂いが香ってきた。
グリージに住んでいた時は一切感じなかったが、離れてみると分かる。
木々や花の香り、澄んだ空気。そして、川のせせらぎの音。
(平和だな。マジで)
ここには、都会の喧騒もなければ、強敵の気配もない。
あるのは、住み慣れた故郷に繋がる山だけ。
レイズは大きく深呼吸し、登山を開始した。
「おっと、魔物か」
「……!!」
何回か魔物に出くわすが、簡単に勝てている。
以前は、だいぶ苦戦したのに、楽勝過ぎて驚きだ。
ここ最近、敗北続きで自信を失っていたのだが、それは相手が悪かっただけである。旅を開始した時から見れば、確実に強くなっている。
この程度の疲労感なら、休む必要もない。
レイズはガンガン進んでいき、山の中腹。グリージ付近にまで到達した。
「そろそろか……マジで全然疲れないな」
以前よりも、体力がついている。
これも、旅や修行の成果だろうか。
この辺りは、村が近いこともあり、道が広くなっている。
ここまでくれば、もうすぐだ。
「うわ……懐かし……」
見慣れた木造の家が見えてくる。グリージに、帰ってきた。
「…………」
国が悲惨な状況でも、ここは変わらない。
レイズがここを離れてからも、それは同じだった。
懐かしさや平和を感じ、呆然と立ち尽くしていると、彼の姿に気づき、村人が声をかけてきた。
「レイズ?レイズじゃないか!?」
「おぉ!!帰ってきたのか!?」
「久しぶりじゃのう!」
レイズとあまりしゃべったことのない村人も、声をかけてくれた。
ここは人口が少ない。会う機会は多かれ少なかれ、皆の顔は知っている。
「一人か?一緒にいたのは?」
「いや、今日は一人だよ。少しだけ時間ができて」
バージルに連れられ、騎士団に入るために村を出たのは皆知っているはず。
だが、詳細は聞いてこない。
それに、エラー龍力者である自分のことを怖がっている雰囲気でもない。
村に残った他のエラー龍力者が、暴走を起こさず平穏に暮らしているからだろうか。
「なんだ……なら、また出てくのか」
「まぁ、そうだね」
「ま、ゆっくりしてけや!レーヌさんなら家にいるぜ!」
「あぁ、ありがとう」
村人たちに連れられ、自分の家に向かう。
彼らの感じを見て、レイズは何となく察した。『あいつ』は、帰っていない。
「……もういいだろ?ひとりで行けるから」
自分の家に帰るだけなのに、ずっと付いてくる人たち。
レイズは気になって仕方ない。
「いや~でっかくなったお前を見てたいんだ」
「ほんと、なんか凛々しくなってない?」
おっちゃんおばちゃん連中に褒められても、あんまり嬉しくない。
だが、嫌な感じはしない。
「こっちにも顔を出せよ!サザギシも、もう気にしてないから!」
サザギシの名前が出て、立ち止まるレイズ。
「!!……分かった」
この休暇に帰省したのは、サザギシに会うためでもある。
荷物を置いたら、すぐに会いに行こう。
彼は、荷物を背負う手に力を込め、レーヌの待つ家に足を進めるのだった。