―悲痛な訴え―
報告会は終わった。
龍魂を超えた、『フル・ドラゴン・ソウル』という新たな力。研究員たちは、それに届かないか試すと言っていた。
望みは薄いが、次なる力の有無が分からないまま研究するより、自分たちが示した具体例があると、騎士団や研究員はいい刺激になる。
よって、マナラドでは、引き続き龍力を上げる研究が行われる。
それに加え、追々にはなるが、フル・ドラゴン・ソウルの研究にも入る予定だ。しかし、研究にはそれが使える人間の協力が不可欠。つまり、レイズたち誰かがマナラドにつきっきりになってしまう。
それはクラッツが許さなかった。
そのため、メインを龍力アップに、サブとしてフル・ドラゴン・ソウルの研究を行うそうだ。
騎士団員や研究員が退席した後、クラッツとレイラたちで今後のことが話し合われた。
「本当にご苦労だった。スゼイとかいう男……何者なのだろうな」
「……分かりません。敵であることに間違いないのですが」
「フリアとの繋がりが気になる」
レイラやリゼルは、次の思考に移っている。
リゼルは、フリアとスゼイの接点の有無が気になっている様子だ。
敵になる以上、彼らの間に接点があろうがなかろうが関係なさそうだが、違った対応が求められる。
敵グループが一つか二つか。騎士団サイドが感じるプレッシャーは桁違いだ。
「敵は強大だ。騎士団内では、とてもではないが対処できない」
「「「「え?」」」」
予想はしていたが、クラッツがそれを言うのか。
団長が先に言うと思っていなかったレイズたち。マリナとミーネは互いの顔を見合わせる。
レイズの無意識にバージルを見たが、彼はこちらを見ることはなかった。
そう言えば、バージルは騎士団に残る選択だったな。
対処できない。と言っておきながら、顔は諦めていない。
リゼルは何かを察し、小さく息をつく。そして。
「……それで、どうする気だ?」
「我々は、『四聖龍』へ協力を要請した」
「!!」
あの一件以降、初めて聞いたその言葉。
国を東西南北に分断、その地区の騎士団を裏で支えている影の戦力。
(四聖龍!遂に動くのか……!)
バージルは身を固くする。
「と言っても、北の四聖龍には要請を出していない……他の四聖龍には、騎士団を通じて協力を要請した」
「そうでしたね……北は……」
代替わりしているため、あまり中枢に呼びたくない。
「あぁ。彼らが優遇されているのも、騎士団が正常に機能している上でのことだ。その騎士団がなくなれば、四聖龍であるメリットは何一つなくなる」
「なるほど……」
「あの感じだと、四聖龍の強さも、フル・ドラゴン・ソウルだろう。彼らがいれば、太刀打ちできるかもしれない」
無論我々も特訓はするがね、とクラッツは締めくくる。
「それで……私たちは?」
「君たちのには……」
「悪いけど、その前に、ちょっといいか?」
騎士団長の言葉を遮り、レイズが手を上げる。バージルは「来たか」と目を閉じる。
リゼルに「止せ」と言われるが、レイズは聞かない。上げたその手を下ろさない。
真っ直ぐにクラッツを見ている。
「どうぞ。言いたいことがあるのだろう?」
「あぁ。どうしても確認したいことがある。レイラたちにも聞いてほしい」
「…………」
言われなくても、雰囲気で分かる。
長旅で培われた機器察知能力。レイラのそれがビンビンに反応している。
「俺たちは……騎士団は、負けっぱなしだ」
「!」
マリナとミーネが顔を上げる。
そして、首こそ動かさないが、レイズを見ている。
普段は明るく振舞っていた彼も、同じ悩みを抱えていたのか。
「この編成には、レイラだっている。それなのに、いつも最前線だ。それに、俺たちは素人同然で一緒にいた。いつまでやればいいんだ?」
「レイズ……」
自分が最前線にいつのは、我儘である。だから、それについては何も言えない。
しかし、同じチームにいる以上、彼らも最前線に引っ張り出されることになる。
半ば、強制的に。
ただ、レイズたちの実力は、ここ最近で騎士団トップクラスになっている。
『フル・ドラゴン・ソウル』の理解が進み、騎士団員が追いついてくれば話は別だが、今この瞬間は、表の最高戦力になりつつあるのだ。
しかし、レイズの訴えはそう言う話ではない。だから、レイラは黙って聞いている。
「騎士団のお偉いさんは、女王と、素人同然の俺らを使い捨てる気なのか?」
「…………」
クラッツは何も言わない。
口を固く結び、厳しそうな顔をしている。
「……俺たちは、捨て駒か?」
「!!」
捨て駒、という表現に、リゼルは席を立とうとする。
しかし、レイラにそれは阻まれる。
「…………」
止めなくていいのか、とアイコンタクトを送るリゼル。
彼女が理解したかは不明だが、彼女は首を横に振る。
これは、仲間が抱えている悩み。
常日頃から一緒にいる仲間に寄り添えなくて、国が救えるものか。
レイラは、全ての言葉を噛み締め、どうその不安を取り除けばいいのか必死に考えるのだった。