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龍魂  作者: 熟田津ケィ
-全ての始まり-
18/689

試験前夜

レイズたちは、アーロンに連れられ、レイグランズの町を歩いていた。

その目的は、一晩を過ごす宿を探すことだ。


町行く人々の数は、ミナーリンの比ではない。

道具屋、服屋、武器屋、防具屋、装飾品、食事処、甘味処etc.

この世の全てがここに集まっているように感じた。


「すげぇ……」


レイズは、二人についていくので精一杯。

それもそのはず。グリージとは桁が三つも四つも違う。


かなり活気に溢れている。『あの日』の爪痕も分からないレベルだ。

国が復興を急いだ結果だろう。しかし、一度落ちた信頼は簡単に取り戻せない。


人の数=思想の数だ。人が増えてくれば、騎士団にヘイトを向ける者もいる。

アーロンもそれを経験済みなのか、人通りが多くなったタイミングで、レイズとバージルに声をかける。


「二人共。少し覚悟しておけよ」

「覚悟……?」

「……これが、騎士団の立ち位置だ」


騎士団の服を着たアーロンに、罵声を浴びせる者。


「民を守れない騎士は必要ない!!消えろ!!」


デカい紙に「騎士団不要」や、「辞めろ」、「許さない」など書いてある。

一人二人ではなく、一定数いる。しかも、マイクパフォーマンスを行っている者もいた。


町行く人の多くがその集団を気にせずすり抜けていく。その事実も、救いである。

全員が全員、騎士団の敵ではない証明になっている。

だから、騎士団入団希望者がゼロにならないのだ。


ただ、レイズには少々衝撃的な光景だ。


「…………」


完全無意識だが、アーロンの影に隠れるようになってしまう。


「バージル。今の……」

「あぁ。これが現実だな。味方も多いが、敵もクソ多いのが実際だ」

「そう、か……」


分かりやすくメンタルに効いているレイズ。

そう。この現実を直視し、尚且つ進むと言えるか。

グリージで誘った際に、この実情を最初に言わなかったのは、事情がある訳だが。

それでも団に入るなら、第一関門は突破である。


「凹んだか?未来ある若者たち」


空気を変えようとしてくれたのか、アーロンが口を開く。


「そりゃ、まぁ……」

「自分は旅してたんで、まぁ初見ではないですけど、実際ココのは規模が違うっすね」

「まぁな。王のお膝元での大不祥事だ。これでも人が離れなかったのは、新しい王様の努力を間近で見てたからだと思うぞ」

「王様?新しい……」


そう言えば、王が交代したと聞いている。

その王が頑張っているから、王都が今も王都なのだ。


「気にするなってのは無理な話だが……国も騎士団も全力で復興を目指している。当然、(エラー龍力者の)ケアもな。意見は聞くが、胸を張ってろ」

「……はい」


口では言うが、実際心に刺さっているのだろう。

入団を言いに来た時より、明らかに表情が暗い。


ここは一発、身を切るか。


「良い若者に出会えて気分が良いからな!!俺の驕りだ!!」

「!」

「え!?マジっすか!?」

「流石に最上級は無理だが……Aランクくらい、任せとけ!」

「「ありがとうございます!」」


アーロンの太っ腹に甘え、かなりいい値段のするホテルに向かったレイズとバージル。

手続きは全てアーロンがやってくれた。彼は部屋に入ることなく、エントランスで激励をして立ち去った。


「応援してるぞ。二人共。俺は推薦状を渡してくる。試験にも行くつもりだ。フォローは流石にできんと思うが……まぁ、ドンとやれ」

「「はい!」」


そして、その夜。

レイグランズ一帯が見渡せる良い部屋で、翌日の準備をしている二人。

その部屋も広いが、実際使っているのは一部分だけで、かなり持て余していた。

それでも、いい思い出にはなる。アーロンに感謝だな。


「……試験開始が……時で、こっから……分くらい……だから、だいたいこの時間に起きて、飯食って……」


ブツブツ言いながら、バージルは明日の行動を逆算していた。

レイズはベッド脇のテーブル(高級そう)で自己紹介表を記入している。


そこでチラっと見えたが、レイズは本名ではなく、短縮形だった。

正式名称は、レイジア=リ……ス腕で隠れて見えない。


「レイジア……」

「!」


口に出してしまっていたらしい。レイジアが顔を上げる。


「……見てたのか」

「すまん。そんな気はなかったんだ。けど、見えちまった」

「レイジアってのが、俺の正式な名前だよ。皆レイズって呼ぶから、それに慣れちまったな……って、別に隠してたわけじゃねぇよ」

「あ、あぁ……」


これ以上、名前の件で詮索しない方が良いと思えた。それくらい、彼の表情は遠い。

ファミリーネームも気にはなったが、聞かない方が良さそうである。


良いホテルに泊まれ、気分が上がったとはいえ、騎士団の現実を突きつけられたその日に、触れられたくなさそうな名前の話は、追い打ちになる。


「……先に寝るぜ」

「あぁ。俺も寝る」


これ以上刺激しないよう、バージルは早めの就寝とした。

明日、自分たちがベストなコンディションで試験に臨めるよう、薄れゆく意識の中で願うのだった。

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