―報告会―
数日後、レイズたちは王都に戻った。
騎士団本部での報告会に出席し、成果を報告している。
レイズたちは全員出席。発言は主にレイラとリゼルが行う。騎士団サイドは、団長及び隊長クラスと部下数名。そして、マナラドの研究員たちだ。合計で30名ほど、城の会議室に集まっている。
スゼイ戦の話もあるかと思いきや、今回の報告会では議題にすら上がっていなかった。
後でクラッツと個別での面談が設けられている。大勢いる場での方が良い気がしたが、レイズたちは大人しく従った。
まず、騎士団サイドは、マナラドとの共同研究で戦力を強化できたことを報告した。
成果を見せてもらったが、フル・ドラゴン・ソウルには到底到達できないレベルだった。
キツイ言い方をすれば、ただの自己満足レベル。
騎士団長の手前、良い恰好をしたかったのだろうが、レイズたちには通用しない。
(こんなレベルか……)
戦力強化のお披露目が終わり、感想を求められたが、レイズは何も言えなかった。
それを見て、騎士団サイドは『龍魂素人には難しすぎた』など戯言を吐いていた。
こちらにはリゼルやレイラもいる。彼らが黙っているのを見て、シャンバーレでの成果がなかったと勘違いしているのだろう。
「では、あなた方の報告を聞きましょうかな。時間の無駄かと思いますが」
「……フン」
「分かりました」
報告者が交代し、リゼルとレイラが話を始める。
シャンバーレでの出来事。
道場のランクについて。
そして、『フル・ドラゴン・ソウル』のこと。
「今見せていただいた成果は、正直、シャンバーレでは初心者レベルでした」
「!」
研究に携わっていた騎士団員や研究員がざわつく。
それを見て、レイズは少し唇を緩ませた。いい気味だ。
「どういうことです!?」
「納得できる説明はあるのかね!?」
騎士団の中では、レイラは一団員だ。
女王の肩書を感じさせない口調で、好き放題言い放ってくる。
「静かにしてくれ」
「……!」
収拾がつかなくなる前に、クラッツが黙らせる。
団長に言われるまで野次を飛ばす騎士団も考えものだが、彼の威圧感は半端ではなかった。
静かになった後、彼はレイラに向かって頷いて見せる。
「……シャンバーレでは、フル・ドラゴン・ソウルを教えていただきました」
「ん……フル・ドラゴン・ソウル……?」
議事録ほどではないが、自身もメモを取っていたクラッツ。
ペンを止め、レイラたちを見る。
「はい。通常の龍魂よりも数段に龍力を発揮します。敵は、この力を完璧に操れると考えていいでしょう」
聞きなれない言葉。
騎士団員や研究員は、再び口を開く。
研究者として先を越されたのが悔しいのだろう。先ほどより口を出してくる研究者が増えている。
「なんだそれは……?」
「出鱈目を言うな!!」
「結果が出なかったから悔しいんだろ!?」
言いたい放題だ。
「くそ……」
いい加減に、とレイズは拳を握りしめる。いきり立って怒鳴ってもいいのだが、バージルに止められる。
「止めとけ。俺たちが出て行っても余計混乱する」
「…………」
バージルは、前に出ている二人を見つめる。
さっさとなって、実力を見せつけてやれ。
「……見せた方が早いですね」
「あぁ」
レイラの合図で、リゼルは机から少し離れ、龍力を高めていく。
まずは、ドラゴン・ソウルだ。
「……こんなものか?」
「この程度でしたら、我々も……」
「まだですよ」
一気に解放しては、この部屋が龍圧で満たされてしまう。
じわじわと様子を見ながら上げていくリゼル。
程なくして、彼は騎士団サイドが報告した龍力レベルを超えていった。
「!!」
フル・ドラゴン・ソウル領域だが、これでもかなり龍力は抑えてある。
当然、騎士団サイドが報告した龍力レベルを軽く超えた力だ。
「……良い感じだ」
クラッツは笑みをこぼす。
騎士団員や研究員は一斉に黙った。
圧倒的な力の前に、何も言うことができない。
「私たちは、まだ完璧にコントロールできるわけではありません。が、ここにいる全員がその力を扱うことができます」
レイラは手でレイズたちを示す。
一斉に視線が向けられ、自然と背筋が伸びる。
「ッ……」
騎士団サイドにしてみれば、更なる追い打ちだ。
レイズたちを見た後、目線を反らしていく騎士団員。
彼らの情けない態度に、クラッツはため息をついた。その後レイラを見た。
「なら、さっそく騎士団員に伝授を……」
「問題は一つ」
クラッツを遮り、レイラは続ける。
「継承できない点にあります」
「……なんだと?」
研究員の一人が、彼女を睨みつける。リゼルはそれを殺気を込めて睨みつけた。
その視線にやられ、黙る研究員。
「ご存知の通り、龍魂は感覚的なところが多い力です。つまり、万人に通ずる法がありません。私たちは、偶然にも良い師に巡り合えました。彼のお陰で、私たちはここにいます」
「つまり、騎士団員にそれを広めることは……」
「……私たちでは、できかねます」
落胆の声。
また野次が飛んでくるかと思ったが、それはなかった。
こちらは、騎士団サイド以上の結果を出している。
フル・ドラゴン・ソウルを広め、戦力強化につなげられないのは不安要素ではあった。レイズたちもそれは理解している。
クラストに教えてほしいと頼もうかと思ったが、『旅人』として彼に接している以上、力に拘るのは違和感があるし、レイラの言うように、感覚的なところが多い。
教科書に纏めるのは不可能なのだ。それは騎士団サイドも分かっている。
クラッツは暫く考え事をした後、解散宣言をした。
これからは、レイズたちとの面談始まる。