―騎士団への要求―
マリナとミーネは、昼過ぎごろ、外にあるレストランにいた。
例によって、病院付近の施設は被害がない。ここも通常営業している。空腹を我慢して時間をずらしたのもあり、他の客は少なかった。
レンガ造りで、席はスペースが区切られているタイプ。それだけではなく、オープンテラス席もある、開放的なレストランだ。
食って即出るような店ではなく、落ち着いて話もできる雰囲気の店だ。
「ふぅ、外に出れて良かった」
「うん。そだね」
病院内では、正直話しづらい。病院で気が滅入っている部分もある。それに、医療従事者が行ったり来たりしており、誰が聞いているか分からない。
それに、リゼルとレイラには聞かれたくない話もある。
「食べよか」
「うん、お腹すいた」
彼女たちはそれぞれ好きな料理を頼み、その料理をまずは楽しんだ。
本題に入る前だが、二人とも分かっている。ここから先は、きっと重い話になる。
だから、今は美味しいものを食べて、気分を上げておこう。
「ふ~、食べた食べた」
「美味しかったね」
「うん、久々にまともな場所で食べた気がする」
最近の食事は、キャンプや宿の部屋が多かった。
大自然の食事も良いが、はやり落ち着いて食べられるのは良い。
それに、外食であれば、洗い物のことを考えなくても良いのは大きい。
「で、本題に入ろっか……」
「そう、だね」
口を拭き、飲み物を飲む。気を落ち着かせ、マリナとミーネは座り直した。
ここからは、真面目な話だ。
「これからのこと、ミーネはどう思ってる?」
「え……あたしは……」
「ここは二人だけ。正直に答えて」
昼過ぎとはいえ、客はゼロではない。だが、話を聞かれる距離に客はいない。
タイミングとポジションは良い方だろう。
「……あたしの初めの目標は達成できた。それは一番大きいわ」
「確か、龍力のコントロール……よね?」
彼女は頷く。
(そっか……わたしとは事情が違ったわね)
ミーネは自分と違い、平常時でも龍力を自分で使うことはできていた。だから、特別扱いで編成されたと聞いている。そのコントロールを主目的として、レイラと同じ部隊に所属させてもらっている。
そして、今、課題であった龍力のコントロールができた。そして、その上の力にも手が届き始めた今、彼女は何を思うのか。
「でも、それで終わりにしたくない。恩返しがしたい」
「えぇ……それは私も同じよ」
「うん……でも、死ぬのはイヤ」
ミーネの考えに、マリナは頭を抱える。
「全く同意見だわ……」
シャンバーレにいるころは、まだよかった。危険なのは、魔物くらいだったから。
だが、シャンバーレから戻ってしまえば、先日のような強者と剣を交えることが多くなるだろう。
当然、ただのケガでは済まない、死んでしまう確率も上がる。
「……多分、彼らのことだから、方針は変えないと思う」
「そう……ね……」
マリナも同じ考えだ。
状況的に、国の安全が脅かされているのも分かる。
だから、彼らはそれを解決すべく、最前線で奔走するだろう。
ここからは、本当に危険な任務に就くことになる。ここから先は、領域が違う。
「……正直、辞めたい。でも、彼らには大きな恩がある。どうすればいい?」
「わたしは……」
マリナは、クラストの言葉を思い出す。
『お前たちの強さは発展途上だ。まだまだ強くなれる』
彼は、皆の前でそう言った。だから、全員伸びしろがある。
だが、それがいつ獲得できるかは誰にも分からない。
「は……答えを急がなくていいと思う。でも、わたしも同じこと考えてた」
「マリナ……」
「彼らには恩があるし、それをきっちり返したい。けど、やっぱり命を捨てるようなことはしたくない」
騎士団は人手不足。
中途半端ではあるが、自分たちは実力がある。
一国の王であるレイラがいるにもかかわらず、前線で戦わされるだろう。
レイラもそれを望んでいるため、いきなり後衛任務になることはないと考えていい。
つまり、一番『死』に近い。
ある程度仕方ないのは分かるが、それで片づけられる問題でもない。
かと言って、代案がある訳でもないのが苦しい。
「帰ったら、相談しましょう。上に掛け合うの」
最前線に行くのは、状況的にも仕方ない。
だが、後ろ盾と言うか、ポン、と軽い感じで危険な任務に就かさないで欲しい。
レイラがいる以上、騎士団上層部も軽い配置ではないのは分かっている。だが、負担が大きすぎるのは考え物だ。
「マリナ……うん、分かったわ」
モヤモヤしたまま任務に就くのは、お互いに良くない。
だったら、区切りがついた今、こちらの考えを伝えるべきだ。
それで騎士団が何も策を講じないなら、その時は、道を違うときになる。
そうならないように、騎士団には柔軟な考えも出してもらいたいものだ。
マリナとミーネは束の間気分転換を満喫し、休息のために病院の戻るのだった。