表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍魂  作者: 熟田津ケィ
ー裏任務ー
177/689

―選択肢の提示―

病院の近くでのカフェで、飲み物を飲んでいるレイズとバージル。

病院付近には研究施設がない。そのため、スゼイたちの襲撃の被害には遭わなかったのだ。

復旧作業が始まっているとはいえ、皆警戒しているのか、マナラドを離れたのか、客はまばらだった。

客だけではない。店の広さの割に、出勤している従業員が少ない。抑えているのか、逃げ出してしまったのか。


カフェは木造で、天井には空気を循環させるためのプロペラが回転している。

温かみのある明かりと、窓から差し込む日光。

イス席とソファー席があり、レイズたちはソファー席に案内された。

こんな状況でなければ、本当に落ち着けるスペースである。


レイズは果肉入りアップルジュース、バージルはブラックコーヒーを頼んでいる。

アップルジュースのグラスを回しながら、レイズはボソッと呟いた。


「……俺たち、ずっと負けてないか……?」

「……ッ!」


レイズの何気ない言葉に、バージルはむせ、咳き込む。

気が動転したか、テーブルを無意味に拭きながら再度聞く。


「なにを……?」

「ずっと思ってた。俺たち、勝ったことがない気がする」


カラン、とグラスの氷が音を立てて回転する。


「…………」


彼の言葉に、バージルは返す言葉がなかった。


魔物相手だったら勝てる。そう言おうとしたが、止めた。

実際、ここぞというときの戦いで、自分たちは勝利していない。


ゆっくりと言葉を選びながら、口を開く。


「……そうだな。それは否定できねぇわ」

「この先……どうなるんだろうな」

「…………」


バージルは何も言えない。

時日、敵の規模や目的がいまだに分からない。

騎士団は後手に回る一方で、何も具体案を出せていない。

レイズですらそれを分かっている。ということは、リゼルとレイラも同じことは考えているだろう。

あの二人が王都に戻って大人しく任務に戻るとは思えない。何かしらのアクションを起こすはずだ。

だが、それは二人レベルでの話。自分たち新人がどうにかできる問題ではない。


「俺たちは強くなった。けど……」

「…………」


バージルは無意識だった。

口をついて出た、『強い』という言葉。しかし、敵はそれを軽く上回っていた。

フル・ドラゴン・ソウルの習得。この事実は大きい。だが、敗北したのも紛れもない事実。

それを思い、言葉が止まる。


「けど?」

「いや、なんでもない。お前は、どうしたい?」


バージルは一旦考えるのを止め、レイズに聞く。

悩みなんかなさそうな単純な性格に見えるが、彼は彼なりに焦りや不安を感じている。

ここで少しでも吐き出し、気分が軽くなれば良いのだが。


「……分からない」


レイズは頭を横に振る。

グラスを置き、両肘をつく。そして、顔を隠すように額の前で指を組んだ。


「騎士団に居続ける意味があるのかも分からない。かといって家に帰っても、この世の中だ。安全ってわけじゃない。それに、知っちまった以上、無視できねぇよ……」

「…………」

「何が何だか分からないんだよ……」


レイズは本当に参っていた。

自分は、騎士団に入りたかったわけではない。龍魂をコントロールする上で、なりゆきで騎士団に入っただけだ。

だから、こうも強敵と連戦し、しかも連敗するようなことになるとは思ってもいなかった。

今はまだ運よく生き残っているが、こんな状況では、命がいくつあっても足りない気がする。

フル・ドラゴン・ソウルではしゃいでいた自分が恥ずかしい。


しかし、このままおめおめと逃げ帰っても、危険因子が排除された訳ではない。一旦の距離ができるだけだ。

彼らの脅威に怯えながら、知らないフリをして生きていくことになる。


彼の抱えているモノを聞き、バージルはため息をつく。もちろん、バレないように。


(俺じゃ、無理だな……)


自分では、自分の浅い経験では、彼を元気づけることはできない。

それに、下手なアドバイスは逆効果になる。

だから、判断を『上』に投げることにする。


「……王都に戻ったら、きちんと話をしよう」

「え……?」

「今の言葉を、クラッツやレイラたちに言うんだよ」


自分では、ここで良い答えを出せない。

リゼルの名前を出さなかったのは、レイラ関連ではないからだ。「嫌なら辞めろ」と言われる可能性が非常に高い。

ただ、団長やレイラなら、まだ話を聞いてくれそうである。


(この負けは、無駄じゃない。きっと……)


騎士団は負け続けており、良い状況ではない。だが、確実に進んでいる。バージルはそう考えている。

だから、自分の意見は騎士団側に偏る。

それでは、ダメなのだ。

レイズの意見をフラットに聞けるのは、彼らしかいない。


「それでも無理なら……騎士団を抜ければいい。こんな状況だ。誰も責めねぇよ」

「バージル……」


『騎士団を抜ける』や『誰も責めない』の言葉に、額の前で組んでいた指を離すレイズ。

バージルの顔は、真剣そのもの。

本気で、抜けても構わないし、責めもしないと思っている顔だ。


「良いのかよ……お前は……」

「正直、そうなったら残念だ。けど、責めない。そう言う状況だろ」


大切なのは、レイズの意思だ。誰でもない、彼の選択。

その選択に、自分は意見しない。


(約束は、果たせないかもな……)


ふと思い出した、誰かとの約束。バージルは頭を押さえ、約束の主を思い出そうとする。


(誰、だ……?)


しかし、思い出せない。レイズの母?レイズ本人?いや、もっと前のような気もするが……

兎に角、だ。レイズが戻ることになれば、約束は果たせなくなる。

だが、それでも構わない。今は、無理に引き留めるより、流れに任せる。そして、彼の意思を尊重するだけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ