―迷い―
足音の正体は、王都からの騎士団だった。
再編成され、マナラドに移動していたところ、龍力の乱れを察知して、こちらに来たそうだ。
『もう少し早ければ』
そう思ったのは事実だが、今の騎士団で、あの龍力者が倒せていたかは分からない。
結果論だが、こうして追い払えただけでも良かっただろう。
レイズたちは、マナラドの病院で体力の回復に努め、王都に戻ることにした。
幸い、剣で深く傷つけられたのではなく、龍術で吹き飛ばされたダメージだ。
今までよりも傷は浅く、皆数時間で目覚めていく。それでも、皆疲れていたのか、覚醒時間は短く、すぐに眠りについていった。
騎士団と会話ができた際に、スゼイが潜んでいた建屋も報告したが、もぬけの殻だったそうだ。年のため、他の建物も調べたが、痕跡が全くなかった様子だ。
眠り続け、三日目の昼。
「…………」
レイラは、病院の屋上でマナラドの町を一人で眺めていた。
風が心地よい。旅の時より幾分マシになった髪が風を受け、踊っている。
人が少なく、半廃墟であることに変わりはないのだが、壊れた建物にも工事が入り、元の姿に戻ろうとしている。
目覚めたときは、すでに病院だった。再編成され、応援に来た騎士団は、スゼイには会っていないとのことだった。
なぜ、あの龍力者が自分たちにトドメを刺さずに去ったのかは分からない。戦況が悪かったとは思えない。
実際、騎士団員もあの戦場を見て、自分たちでは適わなかったと漏らしていた。
マナラドとの共同研究で全体のレベルは上がったらしいが、その反応では、程度は知れている。
よって、簡単に勝てたはずなのだ。それなのに、彼はそれをせず、去る道を選んだ。
それはそれで助かっている。
だが、脅威が去ったわけではない。
「どう……すれば……」
敵は騎士団より強力だ。
仮に、増員として付け焼き刃で人を増やしても、勝てなければ意味はない。無意味に死傷者を増やすだけだ。
「……お父さん……私は……」
分からない。
父は今どうしているのか。
「なんで……こんなことに……」
平和な未来を築きたかった。
一度は大きく後退したが、順調だと思っていた。
回り道でもいい。遅くても良い。一歩一歩進んでいけば、未来は開けると思っていた。
しかし、実際は違った。
進めば進むほど、敵は増え、壁は立ちはだかる。
その壁を超えなければ、未来はない。
なのに、その壁を超える力を、自分は持っていない。
(どうすればいいの……?)
問題は山積みなのに、何も手に付かない。できる気がしない。
昨日もそうだ。
フル・ドラゴン・ソウルを使えたと思えば、敵はその力を軽く超えてきた。
実際は、まだフル・ドラゴン・ソウルを使いこなせていない。よって、勝てないとはっきりと言えないのだが、今の感覚から言って、あのレベルまで到達できるとは思えなかった。
何をしたって無駄。そう思えてきてならない。
「はぁ……」と無意識にため息が出てしまう。
そんな彼女の様子を見守る人影が一つ。
「…………」
屋上へ続く扉の裏で、リゼルは出ていけずにいた。ただただ唇を噛み、悔やんでいる。
あの時、自分が深追いしなければ、こんなことにはならなかった。だが、潜伏している可能性がある以上、放っておくこともできなかった。事実、敵を炙り出すことはできた。
(追わなければ……)
ただ、炙り出したところで追わなければ、こんな思いをすることはなかった。
フル・ドラゴン・ソウルを使えるようになり、調子に乗っていたのか。
グレゴリーやフリアクラスの相手でも戦える。勝てる、と。
(クソ……)
とんだ思い上がりだ。
敵が見逃してくれた(?)から良かったものの、こんな結果では、レイラを守れない。
自分だけが犠牲になるのは構わない。レイラを、彼女を守れなければ、この命に意味はないのだ。
「…………」
リゼルは意を決し、その場を去っていく。
この燃え上がるような悔しさを、無駄にはしない。