―その一瞬―
マリナは、スゼイの攻撃を紙一重で避けている。避け続けている。
彼女的には、大きくかわすことは可能である。だが、紙一重でかわした方が精神的ダメージが大きいと考えたため、そうしていた。
「…………」
「こいつ……」
肩で大きく息をしながら、歯をギリギリと鳴らすスゼイ。
彼は、攻撃の手を止める。と言うか、彼はシンプルに疲れていた。
どんな手品を使ったか分からないが、このメスガキに攻撃が見切られている。
それだけではない。不思議と、このメスガキから感じる龍の絶対量がかなり増えている。
それも、先ほどの龍力のキャラクターとは異なっている。
(……クソが)
頬に受けた一撃を返す。そして、顔面を踏み潰してフィニッシュ。
それに拘り、拳で戦っていたが、それももう辞めだ。
避けられているとはいえ、反撃の兆しはない。龍力のキャラが変わったのが気がかりだが、戦闘時にハイになる類のモノだろう。
軌道を読み、避けているだけの逃げの戦闘。ならば、もう一度範囲技をぶち当てればいい。それでしまいだ。
「……もう、終ワり?」
マリナは、ニヤリと笑って見せる。その笑顔に引きつりが見られるが、スゼイは気付かない。
一瞬で頭に血が上るが、まだ冷静さを保っていた。
「終わりだ……お前がな!!」
大きく跳躍し、距離を取る。メスガキ相手に距離を取るのはプライドが許さなかったが、ここで何もできずに帰るよりはマシだ。
スゼイは片手を上げ、龍力を溜める。
彼の周囲に稲妻が充満する。それらは大地を駆け、範囲を広げていく。
「まタ……!」
キメに来た。マリナはそう感じた。
再び『あれ』が飛んでくれば、戦闘不能だ。それに、気絶している仲間もいる。
回避の選択肢はなし。技を受けきる必要がある。
(溜めルノには数秒時間がイる。なラ……!)
マリナは今、感覚がハイになっている。
そして、あの雷の柱の龍力レベルも手に取るように分かる。
半暴走状態を強引に引き出したが、ぶつかり合いで勝てなければ結果は同じ。
限界を超える力を、ここで。
(あリったけヲ……!!)
マリナは腰を落とし、重心を下げる。受ける姿勢を作り、残った龍力を解放した。
「!!」
フル・ドラゴン・ソウルに加え、半暴走状態。非常に危険な状態だが、この状態でなければ彼に対抗できない。
(良イ……!良イ……!!)
目は大きく見開かれ、瞳は小さくなっている『ガンギマリ』に近しい目に変わっていくマリナ。
いつになく気分が高揚している。力が湧き上がっているようにも感じられる。
彼女の周囲にも、激しく稲妻が駆けていく。半暴走状態であり、意識が十分でないため、彼女の雷は地面を焦がしていく。
だが、力量は素晴らしい。
(守ル……!!今度コそ!!守り切ル!!)
米神の血管が浮かび上がり、汗が滴る。
と同時に、敵の雷の柱が完成した。時間がない。こちらも、最大級の力を。
「くたばれや!!」
「……雷帝刃!!」
雷の柱が落ちる。
それに対抗すべく、マリナは仲間を守るように剣を構える。
「死ねぇぇぇぇぇえええええ!!」
「あぁァァァァァぁァアアあッ!!」
スゼイの龍と、マリナの龍が激突した。
両者の力のせめぎ合い。一進一退の攻防が始まる。
龍力的・肉体的にも、スゼイの方が有利である。彼は吠える。
「諦めがわりいんだよ!!」
「~~~~~~~~!!」
マリナは大地を強く踏みしめ、必死に耐える。
この腕には、自分だけではなく、仲間たちの命も掛かっている。
絶対に、負けられない。
(力を……チからヲ!!)
その瞬間、何かが自分の中で突き抜けた。
自分と龍との精神世界で、ピースが噛み合った気分である。
限界突破。
その瞬間、マリナの力が、今のスゼイを超えた。超えた時間は刹那であったが、この拮抗した戦いを終わらせるには十分だった。
龍力のバランスを失ったそれらは、その中で反発しあい、大爆発を起こした。
「「!!」」
耳をつんざくような爆音。吹き飛ばされそうな風圧。
「ッ……!」
「ぅッ……!!」
二人は、その衝撃に何とか耐えようとする。
位置やリーチで有利だったスゼイは、割と余裕で耐えている。
しかし、龍力を底から絞り出したマリナに、それを耐える力は残っていなかった。
フル・ドラゴン・ソウルや半暴走状態も解けてしまう。
「きゃあぁぁぁぁああああ!!」
悲鳴と共に、風圧に飛ばされてしまう。
倒れている他の連中も、風圧に逆らうことなくゴロゴロと転がっている。
それでも、彼からの直撃は回避できた。そこは、及第点だろう。
龍力の反発が終わり、辺りは静けさを取り戻す。
「……フン」
実は、スゼイはまだまだ余力があった。
小娘に一撃を入られ、プライドが傷つき、半ば自棄にも見えていたのだが、さすがは龍魂熟練者。
我を失うほどの精神状態にはならなかった。正直危なかったが、堪えた。
「……あいつだけでも殺すか」
他の雑魚はどうでもいい。だが、あのメスガキだけは許さねぇ。
顔面踏み潰して、雷撃を叩き込んでやる。
そんなことを考えながら、スゼイは転がっている人間たちを眺めながら、歩いている。
そして、外ハネした髪をもつ女に目を止める。
(……あいつ……一瞬だけ……)
相手の力が、少しだけ・一瞬だけ上回っていた。
それにより、構築・生成した龍力に亀裂が生じ、爆発を起こした。
同時にメスガキの龍力もバランスを失い、力の流れが乱れ、爆発した。
(……ま、いいか)
が、それも今はどうでもいい。
自分は、勝った。その事実は変わらない。
地面に転がっていた大剣を回収し、メスガキの頭に足を乗せようとした瞬間。
「こっちです!」
「急いで!!」
足音と声が聞こえてきた。それも、一人二人ではない。全滅させるのはきっと苦労しない。が、これ以上長居は無用だ。
舌を打ち、スゼイは声と真逆の方向を向く。
(……こっちが優先だ)
メスガキだけでも殺したかったが、これはプライドの問題だ。
彼の本命ではない。ここは、退く。
スゼイは気配を最大限まで消し、木々の隙間へと姿を消すのだった。