―大切なものを守る―
「……殺す」
静かだったスゼイの龍力が、爆発的に上昇する。
先程とは歩にならない程の量の稲妻が周囲を駆ける。
「!」
稲妻が発する光でマリナのボロボロの顔が照らされる。こいつ、はやり力を隠していた。
『普通』に戦って勝てる相手ではない。
当然、このまま黙って殺されるのは絶対に嫌だ。助けてみせる。
トントン、と掌底で米神を叩くマリナ。
「ふーーーーー……」
彼女はゆっくりと前に出る。
倒れた仲間を守るように。そして、大きく息をつき、剣を構える。
「ハ、雑魚が。やる気かよ」
「……えぇ」
「良いぜ。雑魚は雑魚らしく、もがいて死ねや」
龍力者が襲い掛かってくる。
嵐のような龍力を纏い、拳が高く振り上げられる。
(集中しなさい……私……)
マリナは拳の軌道を読み、かわした。
「!」
敵はすぐに連打を放つ。だが、全てが大振りで、軌道が読みやすい。
マリナはそれらを全て避けていく。
彼女の頭の中では、クラストとの修行の日々が思い出されていた。
「おい、マリナ。ちょっといいか?」
「え?」
一日が終わった後、マリナはクラストに呼び出されていた。
レイズたちを先に帰し、二人きりだ。
「……言いたくなかったら言わなくていい。暴走したときの話が聞きたい」
「!」
暴走、との言葉にマリナは反応する。
話せなくはないが、暴走状態のときの記憶は曖昧だ。
「……良いわ。話す。だって、理由があるんでしょ?」
「…………」
クラストは頷く。
なら、彼を信じて話すまでだ。
マリナは記憶の限り、全て話した。
その後、クラストは大きく息をついた。
「敵意に反応……か」
「えぇ。確証はないけど。私はそれで皆を傷つけた」
顎に手を当て、何やら考え事をしているクラスト。
「マリナ」
「?」
「お前の力が発揮できる、最大の状況が分かった」
「今の話で?」
「あぁ。敵意に反応して暴走したことだが、それ以降はあんまりないんだろ?」
「う……まぁ」
そう。レイラたちが助けてくれてから、敵意に反応して龍が暴走することはなくなった。
それは自分が龍をコントロールでき始めているからだと感じていた。だが、彼の口ぶりでは、それだけではないようだ。
「おれは、雷龍遺跡で暴走したことの方が重要だと思う」
「…………」
自己流の特訓で、何回もあの場所を訪れている。
しかし、何も変わらなかった。だが、本能的に、『ここには何かある』と思えて仕方がなかった。
根拠がない、感覚的なモノだが、何かと心が惹かれていたのは事実だ。
「それで、その状況って……」
「『大切なものを守るため』の戦いだ」
「たいせつな……もの……」
「それは、普段の戦闘では恐らくそこまで意識しないものだ。まぁ、身を守っているのは確かなんだが、そうじゃない。こう……心から守りたい何かだ。そして、自分の意識と龍の意識。そこが交われば、お前は更に強くなる」
クラストの熱弁。
具体的な方法では全くないのだが、なぜかそれは心に響いた。
大切なものを守る。
自分の意識、自分の龍の意識。
それが、今なら分かる気がする。
「だぁ!!当たらねぇ!!」
心底イラついていそうな声。
マリナは、スゼイの大剣の上からほとんど動いていない。
それなのに、敵の攻撃を全てかわしていた。
(……分かる……感覚がビリビリ来る)
敵が動く度に肌に触れる、風の流れ。
耳から入る雷の音。それの強弱。
視覚から入る、敵の龍力の流れ。
全てが、今までよりも強く感じられる。
だが、だけでは勝てない。
そう。『普通』に戦っては勝てない。クラストの言う守るための戦いは重要な要素だが、今この瞬間敵を超える手段にはならない。
だから……
彼女の中の雷龍。波長を強引に合わせに行く。
「…………」
乱れた前髪で目が隠れる。その隙間から見える彼女の瞳は、獲物を狩る龍のようなそれに変わっていく。
ただ、静かに。しかし、確実に。