―雑魚の一発―
「いっちょ上がりっと」
追ってきた龍力者を全員倒したスゼイ。地に伏す旅人たちを眺め、満足そうに頷く。
少しはやれる龍力者であったが、『この領域』には、まだまだ修行が足りていない状態であった。
あれだけの実力がありながら、旅人をしているのは逆に興味深い。が、スゼイが今最優先としている事項からすれば、かなり落ちるが。
(……剣を回収して帰るか。『あいつら』にも言わないとな)
あの隠れ家は、もう使えない。
騎士団は動けない様子だが、こいつらのように隠れた強者がいつやってくるか分からない。
用事が済んだら、即撤退するべきだ。
「さてと……」
スゼイは『わざと』落とした大剣を探す。
彼ほどの龍力者が、戦闘中に武器から手を離すなど、そんなミスをするものか。
当然、裏がある。
武器を手放せば、どんな龍力者も油断する。そこを突かれた龍力者は、本当に脆い。それは、あの連中でも例外ではなかったらしい。
そんな雑魚をいたぶるのは、本当に楽しい。
実力を見せた戦闘後半は、彼らに注意力が戻ってはいたが、当然遅い。希望からの絶望。本当に愉快である。
「あったあった……ん?」
剣を見つけ、拾おうと近づくスゼイ。しかし、異変に気付く。
その剣に覆いかぶさるように、外ハネした黄色が濃い金髪をもつ小娘が倒れていた。
それだけなら何とも思わないが、その女性から、かすかに龍力を感じたのだ。
スゼイは視線だけを動かし、他のメンバーを見ていく。
(……他の奴らは気絶してる……位置が良かったのか?)
龍力を感じるのは、その娘だけ。他の連中は皆気絶している。
あの『巨雷剣』は、龍力の濃淡がないように十分に構築・生成したはずだが、と目を細めるスゼイ。
(そういや、雷使いが一人いたな。そいつか……)
同じ雷龍使いに、龍力の流れを見切られたのだろうか。
何にせよ、敵ではないが。
「ッ……」
うつ伏せで表情は見えないが、意識はあるっぽい。
スゼイはその娘の脇に立ち、声をかける。
「……どきな」
「…………い」
「あ?」
か細い声。よく聞こえない。
「……ない」
「あ゛ぁ?」
ない。なにがないと言うのか。
問答無用で回収しようと屈んだ瞬間、その娘に顔を殴られた。
「!!」
めき、と頬に女の拳が沈む。
それは、ほんの一瞬だった。
寝返りをしながら起き上がり、スゼイの顔を捕捉。
握り拳に龍力を込め、打ち出す。
格下相手に、完全に油断していた故のスキ。そこを完全に突くことができた。
頬から全身に走る雷。スゼイは患部を押さえ、数歩下がった。
「……てめぇ」
不意打ち。
龍力込みとはいえ、か細い女の拳。大してダメージは入らない。肉体的ダメージは。
問題なのは、精神的ダメージ。
雷龍最強。
自分でそう思っているスゼイ。
最強の自分が、格下の小娘に顔に一撃入れられたとなれば、当然、精神は乱れる。
自分のプライドが、許さない。
(俺が……この、俺が……!?)
わざと手を抜いてダメージを食らうのと、素でダメージを食らうのとでは、意味するものが全く違う。
そこにダメージの大小は存在しない。
『ダメージを受けた』
その事実が全てなのだ。
「ざまぁ……みなさい……」
混乱する龍力者を見ながら、マリナはゆっくりと立ち上がる。
満身創痍。龍力もさほど残っていない。戦いを継続するのは、本来であれば不可能なはず。
だが、彼女は立った。
最高の仲間を、守るために。