―雷の柱―
圧倒的龍力で展開されている、雷の柱。しかも、まだまだ高くなっている。
天まで伸びているかのように思わせるそれは、周囲の漂う雲さえも払っていく。
そして、稲妻が激しく弾ける音を響かせながら、天に駆けていく。
「……ぁ……ぁ……」
声が、出ない。
負ける。
レイズたちは、皆そう考えていた。
少し前まで勝機があると思っていた。だが、それは相手の実力を見誤っただけの話だった。
フル・ドラゴン・ソウルの領域に辿り着いた高揚感で、敵との実力差を見誤った。
雷の光に照らされ、一層白く見える仲間たちの顔。
その表情は、絶望以外の何物でもなかった。
「おわった……」
「そん……な……」
一人、また一人と武器を下ろしていく。
せっかく修行を重ね、フル・ドラゴン・ソウルに手が届いたのに、負ける。
図に乗っていたわけではないと思いたいが、心のどこかでその力を過信していた部分はあるだろう。
(皆さん……)
額から垂れる汗を感じながら、レイラは仲間たちを見回す。
皆、龍力はまだ纏っているものの、どうすればいいのか分からない。
彼らは、呆然とその雷の柱を見ている。己の小ささを噛みしめるように。
(今度こそ……今度こそ、助けになれると思ったのに……)
フル・ドラゴン・ソウル含め、龍力を引き出せるようになったマリナ。
自分を救ってくれた彼らに、恩返しがしたい。
この力でそれができると思っていたのに。悔しくて、彼女は唇を強く噛んだ。ぷつ、と唇が切れ、鉄の味が口の中に広がっていく。
「ッ……」
世界は広い。
多分、あの龍力者よりも強い人間はいるのだろう。
格の違いを見せつけられた。
勝ち誇った顔で、雷の柱を見せつけるスゼイ。
すぐに攻撃すればいいものを、なかなか攻撃に移らない。
最後の抵抗でも期待しているのだろうか。
「…………」
レイラやリゼルなら、とバージルは二人を見るが、突撃するような体勢ではない。
流石の二人も、無謀だと理解している様子だ。確かに、アレに突っ込んでいくのは、命を捨てに行くのと同義だと思う。
その他の仲間も、龍力レベルこそ維持しているが、攻撃を仕掛ける様子はなかった。
「だよな」と、肩を落としていると、スゼイが大勢を変えた。
『来る』
レイラたちは、一斉に身構える。
龍力を充填した手を、スゼイは振り下ろした。
「……くたばれ!!」
巨大な雷の柱が落ちてくる。速度はないが、範囲が広い。今から範囲外に出るのは至難の業だ。
リゼルは顔の前で腕を十字に組む。そして、指示を飛ばす。
「……全てを防御に回せ!」
「はい!」
「あぁ!」
各自防御態勢を取り、ダメージの軽減に努める。
が、それは無駄な努力であることは皆少なからず分かっていた。が、こんなところで死にたくない。
今出せる最高の龍で身を守るレイズたち。
その直後、雷の柱が彼らを捉えた。
「ぐっ……!!」
ずん、と上から圧を感じる。圧力だけではなく、雷龍もだ。
同じ雷龍使いであるマリナは、特に強くその龍力を感じていた。
(なんて力……!!本当に同じ龍なの!?)
凄まじい圧力。龍力込みでなんとか耐えているが、それも限界が近い。
全身の骨が悲鳴を上げている。筋肉も痙攣し始めている。
「ぜん……りょくっ……!!」
「が……あ……!!」
稲妻が駆け、雷が彼らを包む。
それが、自分の龍力バリアを破られたことだと気付いたときは、もう遅かった。
「~~~~~~!!」
レイズたちを巻き込み、地面に雷の柱がぶつかる。
それは大地を割き、広範囲にヒビを入れた。
雷の柱は弾け、そこを中心に雷龍の粒子が舞い散っていく。
それと同時に、龍圧が生まれる。周囲の木々を薙ぎ倒し、風が抜けていく。
衝撃は大地の震動を起こし、ヒビ割れた大地を更に崩壊させていった。
金色の長髪を整え、衣服や顔に付いた埃を払う一人の男。
「ふぅ。こんなモンか」
その余韻全てが終わったとき、立っている人間はスゼイだけだった。