―不安の正体―
スゼイとの戦闘が再開する。
大剣を失っている彼は、両腕に龍力を集め、レイズたちの剣と応戦している。
「この……!!」
「オラオラァ!!」
まさか、素手(?)相手に苦戦するとは思っていなかった。
フル・ドラゴン・ソウルの領域に足を踏み込んでいても、戦闘技術が稚拙だと、ドラゴン・ソウルレベルの相手にすら勝てないのか。
(これが不安の正体……!?ですが……)
感じていた不安の正体。スゼイの戦闘技術なのか?しかし、レイラは納得できていない。
だが、深く考える余裕はない。光龍の技を打ち込んでいく。
「光龍鋭剣!!」
「効くかよ!雑魚が!」
「ッ……!」
刃が、通らない。
スゼイが纏う龍力によって、止められてしまう。
「くっそ……」
彼が倒れる前と後で、スゼイの龍力の大きさ自体は変わっていない。
しかし、動きはまるで別人だ。大剣という『錘』を失っているのが大きい。
攻撃力は大幅に削れているが、その分、殺されていたであろうスピードが復活している。
レイズたちは、徐々に焦っていた。
スゼイの武器がない今。体力、龍力を削り、フル・ドラゴン・ソウルで高威力技を放てば、勝機はある。
その立ち回りで、勝てる勝負だったはず。
のだが。
「雑魚ぇ!!……ざけぇ!!」
蓋を開ければ、レイズたちは、武器のない相手に手こずっていた。
敵の龍力は、リゼルとレイラより劣る。
それなのに、敵は彼らの攻撃も軽くさばいているのだ。
龍力を纏っているとは言え、相手は腕と手だ。そして、こちらは剣。それなのに、攻撃が通らない。
「リゼル!!レイラ!!」
「……問題ない!」
「……ッ!!」
六対一の混戦。
入れ替わり戦闘に加わり、戦う。後衛は龍術で支援する。
それなのに、技はかわされ、龍術はかき消される。
龍力をそれなりに使わせたはずだが、敵は涼しい顔をしている。
(くそ……長い……)
戦闘が長くなれば、不利なのはレイズたちだ。
自分たちは、まだ龍魂自体が初心者な上、フル・ドラゴン・ソウルを長く維持することはできない。
レイラとリゼルでさえ、その状態を維持するのは難しいだろう。
クラストは、なぜこんな半端な状態で送り出したのか、本当に分からない。
あとは実戦で慣れろ、と聞いてはいるが、目の前にいる敵は、その後の経験でどうこうできるレベルを超えている気がする。
「あ~ざけぇな……」
戦力を削ぐつもりが、逆に戦力を削がれている。
力が落ちてきたレイズたちに気づいたのか、彼はつまらなさそうに吐き捨てる。
「……もう、終わりにするか」
敵は距離をとり、片手を天に上げた。手は開いており、そこに龍力が集まる。
スキだらけだのだが、レイズたちは、そこに突っ込んでいく勇気はなかった。
今までの流れからして、突っ込んでも避けられるか、手痛い一撃を食らうだけだ。
「腰抜けが……」
スゼイからすれば、突っ込まれようが様子見だろうが、結果は同じだった。
目の前の旅人は旅人にしては強かった。が、それだけ。自分の脅威ではない。
程なくして、掲げた手から龍力が放出する。
「え……?」
レイラが感じていた謎の不安の正体。
それは、『これ』だった。
「そん……な……」
「うそ……でしょ……?」
直径10メートルはあるだろうか。巨大な雷の柱が作り出される。
レイズたちの見開かれた瞳に、その柱が映っている。
龍力、龍圧ともに、先ほどまでのとは別格だ。
(フル・ドラゴン・ソウル……やはりか!!)
リゼルは奥歯を鳴らす。気付いたところで、もう遅い。
不安の正体。スゼイは、フル・ドラゴン・ソウルを当たり前のように使いこなしている。
敵は、自分たち力を軽く超えた力を持っていたのだ。
(ぬか喜びさせて……この龍を見せつける……)
強烈な絶望感。
今まで、力を隠していただけだった。完全に、遊ばれていたのだ。