―得体の知れない不安―
うつ伏せに倒れているスゼイ=フロウ。
あれだけ迸っていた龍力が感じられなくなる。マリナの龍術による拘束は、まだ解かれていない。
「なんだ、あっけなかったな」
それもあり、倒れた龍力者にバージルは不用意に近づいていく。
「強くなり過ぎたのか。俺ら」
彼の武器である大剣は手を離れた上に、雷の拘束は解かれていない。脅威は去った。
バージルが屈み、顔を確認しようとする。だが、マリナは見た。彼の手が動くのを。
「バージル!待って!」
「え?」
「おせぇ!!」
次の瞬間、彼は雷の拘束を力ずくで破った。破かれた拘束は、光の粒子となって消えていく。
バージルは一瞬の出来事だったことと、驚きですぐに動けない。
彼はすぐに起き上がり、バージルの鳩尾に拳を入れる。
「が……ふ……!!」
屈んでいたのが良くなかった。ずぶ、とバージルの鳩尾に拳が埋まる。
そしてそのまま、雷龍を解放した。
彼の手から雷の束が出現し、バージルを吹き飛ばす。
「があぁぁぁああっ!!」
「雷龍拳……ってか?」
スゼイは口角を上げる。
あれだけのダメージを受けているのに、それを感じさせない動きだ。
「バージル!!クソがぁ!!」
大剣はまだ転がったまま。武器を持つ前に仕掛ける。
レイズは剣を振り下ろす。が、それは指二本で止められてしまう。
「は……?」
刃を挟むように、人差し指と中指で。しかも、押しても引いても動かない。
(どうなってる……!?)
レイズはそれが信じられない。
突発的だったため、それなりの力・速度しかなかった。それでも、指日本で止められるそれではないはず。なのに、ヤツは軽々と止めた。
剣越しに見えるスゼイの顔に、彼は底知れぬ恐怖を抱く。
「レイズ!!今行きます!!」
「チィ……」
レイラ、リゼルが彼に斬りかかる。
二人のの攻撃は受け切れないと予測したのか、彼は剣から指を離し、その場を離れて攻撃を避けた。
「……よく(戦況が)読めるているな」
「えぇ、ただ、剣がない今がチャンスです」
レイラは敵が落とした大剣を見る。
非常に使い込まれている。サビや傷、刃こぼれも見受けられる。
手入れはそこまで行き届いていないが、長年使っている武器だということが分かる。
「素手相手に六人かよ?」
バージルは腹部を押さえ、涙を流しているため、痛みが治まるまで、期待はできないが。
「お前は危険すぎる。関係ない」
「ホントに旅人なのかよ。騎士団に入った方がいいんじゃないか?ま、その騎士団もカスの集まりだが」
「…………」
騎士団はカスの集まりという言葉に、リゼルとレイラは黙る。
スゼイが言うカスは、人柄ではなく、力量だ。実際、スゼイたちの力に対抗できず、壊滅させられている。
「……そうね。アンタを殺した後、入ってあげるわ」
二人を見て、マリナは咄嗟にフォローする。
これで、今後顔が割れた自分たちが騎士団と共に行動していても、不思議はなくなる。
まぁ、ここでスゼイを殺すため、無意味だが。
「マリナ……」
「あぁそうかい、なら、本格的に『敵』になるな」
「!」
スゼイの敵は、やはり騎士団。
しかし、重傷者こそいるが、死人は出ていない。
ターゲット以外は殺さない、謎の信念があるのか。それとも。
「関係ないわ。アンタはここで死ぬんだから」
「お~、怖い怖い」
両手を上げ、大袈裟に言う。
その余裕が余計に気持ち悪い。
確かに、敵の龍力は高い。高いが、リゼルとレイラの全力のフル・ドラゴン・ソウルほどではない。
龍力とあの剛腕から繰り出される技に注意していれば、負けることはなさそうだ。
……なのだが、なぜこんなにも余裕がある?
(気味悪いわね……どういうつもり……?)
(……決め切らねぇと、ヤバいな)
仲間たちに、勝ちへの道筋に迷いが生まれていた。
実際、リゼルも勝利への自信が揺らぎ始めている。
ミーネは密かに思う。
(え、空気が……変わった?)
前のめりだった仲間の姿勢が、引き気味になっている……気がする。
それは、レイラも同じだ。
実際、状況的にはこちらが有利だ。だが、この拭いきれない不安。謎の恐怖が胸に引っ掛かって仕方がない。
リゼルに言おうにも、うまく言葉にできない。
パッと見、有利なこの状況で警鐘を鳴らしても、信じてもらうことは不可能だ。
だが、言うべきだった。
この場にいる全員が、少なからずその不安を感じていたのだから。