―対峙―
龍力者を追っていたリゼルたち。
リゼルは、サーチに引っ掛かった龍力者の変化をすぐに感じ取った。
「……止まった」
驚いて避ける人々を意に介さず、リゼルはそれの位置を確認する。
「町の外だ。近いぞ」
「迎え撃つ気ですか……良いでしょう」
逃げる気はないらしい。レイラは腹を括る。
腕の立つ龍力者なら、そのまま気配を殺して逃げることが可能だ。
が、今追っている龍力者はそれをせず、迎え撃とうとしている。
「……そのようだな。そこで討ち取る」
「…………」
レイラは黙る。
リゼルは、その龍力者を拘束する気でいるようだが、レイラには違和感があった。具体的にそれが何かは分からないのだが、胸の奥底に引っ掛かる何か。それが拭えないでいる。
二、三分は走っただろうか。
町の風景は、気付けば背後に小さくなっている。
ここは、別の町へ向かう街道。幅も広く、戦いやすいだろう。尤も、戦うために作られた場所ではないのだが。
「……もうすぐだ。呼吸を整えろ」
「おう」
遠くに、人影が見えた。こちらを向いて腕を組んでいる。
一般人ではなさそうだ。マナラドですれ違った人たちとは、雰囲気がまるで違う。
リゼルたちは速度を落とし、ゆっくりとその龍力者に近づいていく。
相手の龍力者も、自分たちを確認し、腕組みを解いた。
「……来たか。おせぇよ」
ギロ、とその龍力者は自分たちを睨みつける。
レイズたちに、緊張が走る。
「ッ……!」
待っていた龍力者は、細身だが筋肉質な男だった。
立たせた金髪。襟足は背中まで伸ばしている。
真っ白なコートに、胸に包帯。動きやすそうな、型崩れした黒いパンツ。
腰には、大きな剣が下げられている。
(あれは……)
レイズは、どうしてもそれに目が行く。大きな剣が珍しいのもあるが、背負うなりすればいいものを。
彼の背と同じくらい大きいが、邪魔にならないのだろうか。
振り返ったときとかに、周囲になる物にぶち当たってしまいそうだが。
それで恥ずかしくなり、赤面する未来が見える。
「……おい。下らないことは考えていないだろうな」
「え?当たり前だろ」
レイズは、慌てて考えを止める。
「さぁて……」
重々しい音を響かせながら、スゼイは大剣を抜いた。あんなに重そうなのに、片手で。
戦わなくとも分かる。ハッタリでも何でもない、強い龍力者であることが。
「……でかい剣ね。それも、片手で……」
「あぁ……典型的なパワータイプだ」
マリナとバージルは、彼の大剣の扱いに衝撃を受ける。
あの剣で薙ぎ払われたら、ひとたまりもない。ガードできたとしても、衝撃は凄まじそうだ。
「変わったデザインですね……」
「そだね……重量の対策かしら」
彼の大剣は、弧を描くように刃にカーブが入っていた。
レイラとミーネは、あのカーブが気になっている。
彼らの前で、リゼルは剣を抜きながら、彼に聞いた。
「……一人か?」
「あぁ」
彼は短く答える。凶悪そうな顔をしているが、素直だ。これは、余裕から来るものだろうか。
顔は大きく動かさなかったが、目線はリゼルやレイラを中心に、仲間たち全員に送られている。見定めるように。
「名前は」
「スゼイ=フロウ」
男は、スゼイ=フロウと名乗った。
偽名か、本名か。どちらにせよ、確認する術はない。
「お前らは、六人か」
「……そうだ。研究所を襲ったのは貴様らか」
「あぁ。そうだ」
「!」
彼は、隠すことなくリゼルの質問に答えた。
「……目的は?」
「『敵』を知るにはいい情報だろ?まぁ、オレは興味ないが」
「!」
彼は、今ハッキリと騎士団や研究所を『敵』と表現した。
こいつは、こいつ『ら』は大変危険だ。
「……他の仲間は、どこにいる?」
「言うか、バカ」
「……!」
バカ、と言い捨てた瞬間、彼の龍力が爆発的に上昇した。
周囲を雷が走る。マリナが舌を打ったのが微かに聞こえる。
「こんどはこっちから聞くぜ。てめぇら、何もんだ?」
「フン、ただの旅人だ」
「……!」
ピク、と彼の眉が動く。そして、雷が発している白い光に包まれる。
次の瞬間、彼はリゼルの前に一瞬で移動していた。雷を、纏ったまま。
「リゼ……!」
レイラが名前を呼ぼうとする前に、大剣の刃が彼の首元に迫っていた。
速い。速すぎる。
その刹那、フリアとの戦いがフラッシュバックするレイラ。
彼は、フリアの仲間なのか。それとも、隠れた強者がゴロゴロ潜んでいるのか。
得体の知れない恐怖心に、鳥肌が立つ。
だが、今はこのスゼイとかいう男が最優先。
レイラたちは、過去最高クラスの戦いに臨むのだった。