―スゼイ=フロウ―
マナラドの東の廃墟。
そこで、一人の男が慌てて外へと走り出していた。
「ヤッベー!!」
リゼルのサーチに引っ掛かった龍力者の男-スゼイ=フロウー(27歳独身)は本気で焦っていた。
彼は丁度、隠れ家でうつらうつらしていたところだった。食事をした後だったこともあり、もう少しで夢にトリップするくらい、意識が薄れていた。
そんな時、突然の高い龍力の出現にビックリして、つい龍力を乱してしまったのだ。完全に気を抜いていた。
そのため、スゼイは隠れ家から飛び出し、急いでそこを離れているところだ。
金髪をワックスで四方八方に立たせ、襟足は、背中まで伸ばしている。その髪が走っている風に靡き、揺れる。
胸元に包帯を巻いており、直で裾が長い白コートを着ている。
背中には、両手で扱うのさえ苦労しそうな大剣が背負われている。
(話が違うじゃねぇか……!?)
『彼』からの情報で、騎士団が少しずつ力を付けていることは知っていた。しかし、こんな器用なことができるとは聞いていなかった。
それに、相手にしていた団員で『あの領域』の龍力が扱える人間はいなかったはずだ。
自分は、龍魂の研究結果にキョーミはない。敵の戦力を知るのは数字を見るより、実際を見た方が良い。それに、数字を追いかけるのは性に合わない。
だから、研究班と分かれ、あの場所での待機を引き受けたのだ。
楽な役目。そう思っていた。
騎士団の連中は本気を出すまでもなく、叩き潰した。
力を付けたと聞いていたが、所詮雑魚の集まり。この程度か。くらいにしか思っていなかった。
その程度なら、隠れ家で誰にも見つからないよう見張っていればいい。そう思っていた。
(あぁ、うぜぇ!)
階段を降りるのすら煩わしくなってきた。
律儀に階段をカツカツと鳴らしながら降りていたが、もう無理。
短気なスゼイは、目立つ可能性を考慮せず、今居る階から飛び降りた。
「!!」
目測で、五階はある。
下の道路に人間は確認できない。ナイスタイミングだった。
鈍い着地音を響かせ、五階からの着地に成功するスゼイ。
即座に周囲を観察し、目撃者がいないか視線を走らせる。
(一人……!)
くたびれた白衣を着た研究員風の白髪の男と目が合った。
アイスっぽいものを食べているが、驚きで動きが止まっている。
(雷斬!)
地面を強く蹴り、一瞬だけ腕に龍力を集める。
相手は非戦闘員だ。剣を使うまでもない。だが、しばらくは眠っていてもらう。
「らぁ!!」
「ぐッ!」
研究員風の男を殴り飛ばし、そのまま町の外へと走る。
「…………」
走りながら、スゼイは後方を意識する。追っている人間はまだ確認できない。
だが、サーチを使うくらいだ。そのままにはしないだろう。きっと、追ってくる。
こちらを意識している、強い龍力者が。
龍力を乱し、潜伏していることがバレたスゼイだが、落ち込んではいなかった。
寧ろ、スゼイは歓喜していた。
(やりてぇ……!!)
町を離れ、イイ感じの広い場所までやってきた。コポマに向かう道だ。
潜伏していた方角はバレても、具体的な潜伏場所までは分かっていないだろう。なら、どうにでもなる。
「……ここでいいだろ」
スゼイはそこで町の方へ振り返り、その龍力者を待つ。
血が湧く戦いができるか、胸を躍らせながら。