―龍力サーチ―
リゼルは龍力を高めながら、クラストとの修行の一部分を思い出していた。
「……お前たち二人には、便利な技を教えておこう」
「便利な技……ですか?」
ある特訓終わり、帰り間際にクラストに呼び出されたリゼルとレイラ。
便利な技とは、何だろうか。
「あぁ。いつも敵が視認できる場所で戦えるとは限らない」
敵が視認できるか否か。
要は、敵の位置を認識できるかどうかの判断である。
「そうですね……砂煙とか、濃霧とか……水中戦はまだしていませんけど……」
戦闘で砂煙が巻き上がることは多々ある。
そうなってしまっては、様子見のために動くことができない状況であった。
濃霧、水中戦は経験がない。
「そうだ。数は少ないが、視界を誤魔化して戦う魔物もいる。その時に使える技だ」
そう言い、クラストは布切れで目隠しをした。
「これでお前たちが見えないわけだが……」
「……?」
さすがに龍魂の状態でも、視界が遮られれば、敵や味方の位置関係は分からない。
だが、この流れは……
「コッソリ移動してみてくれ。俺は隅にいるから」
「…………」
クラストは壁を伝い、隅に移動する。
(位置が分かるというのか……?)
リゼルはわざと大きな音を出し、移動した雰囲気を出す。が、実際には移動せず、椅子に残った。
逆にレイラは言われた通りコッソリ移動し、全く関係ない場所に立った。
「……お、動きが止まったな」
「!」
「リゼルはそのまま。フレイアは……そっちに行ったか」
クラストは目隠しをしたまま、リゼルとレイラの居場所を当てた。
その後、目隠しをずらし、正解を確認すると、自慢げにほほ笑んだ。
「フルになれば、感覚器も敏感になる。距離が遠ければ遠いほど感知はしにくいが、『龍力の乱れ』くらいなら遠くても分かる」
龍魂は感覚受容能力も上がる。
が、視覚には劣る。それを少しでもカバーできる術だ。
「初めはうまく感じ取れないだろうが、慣れれば便利だ。戦況の変化も感じ取れる」
「お願いします!」
「……あぁ」
クラスト宅でのことを思い出しながら、リゼルは徐々龍魂の域を超え、フル・ドラゴン・ソウルの領域へと進化させていく。
「…………」
肌がピリピリし始める。
今不必要な感覚情報も拾っており、情報過多になっているためだ。
リゼルは、まだそれの取捨選択ができない。
その刺激に耐え、龍力を高めていく。
『力を高めれば高めるほど、龍が隣にいるレベルで近く感じられる』
精神世界では、彼の隣に闇の龍が静かに佇んでいた。
龍は目を閉じており、反応がない。
『だが、焦るな。冷静に、パートナーの呼吸(波長)を感じろ』
リゼルは龍の隣に立ち、静かにパートナーの存在を感じている。
『そして、調整しろ。欲張って一気にやろうとするな。落ち着いて、ゆっくり合わせろ』
感じる。パートナーの呼吸を、波長を、パートナーが持つ、底知れぬ力を。
『感覚が掴めたら、丁寧に仕上げろ』
ぶわ、と力が溢れる。同時に、感覚が研ぎ澄まされたかのように思える。
普段なら感じられない感覚さえも手に取るように分かる。
レイラたちの息遣いさえも間近で感じている気になる。
『龍はどんな感じだ?こんなに近くに感じるのは初めてだろ?怖いか?』
龍が目を開ける。
紫と闇色が混じったような瞳と視線がぶつかる。
これが、僕のパートナー。闇の龍。
山のように大きな体。全身が重厚な闇色の鱗に覆われている。
本来の姿なのかもしれないし、自分が無意識想像した姿なのかもしれない。
とにかく、こんなにも龍を間近に感じたのは、フル・ドラゴン・ソウルを使い始めてからだ。
「怖いものか。僕の相棒だ」
リゼルの波長と、闇龍の波長が重なっていく。
「……!!」
凄まじい力を自分の中に感じる。が、力が荒れている感覚はない。しっかりとコントロールができている。
湧き上がってくる力が、暴発することなく自分の身体を流れている。
リゼルたちの立っている場所、近くに限定されるが、町の人間がどこを歩いているかが分かる。
(……悪くない)
リゼルは目を閉じ、更に感覚を研ぎ澄ませる。
龍力を更に高め、感覚情報ををどんどん広げていく。
それに従い、肌への不快感も強まる。だが、耐える。
(この辺りには怪しいヤツはいない……)
距離を広げるにつれ、身体への負担も大きくなる。
戦闘中に使うには向かないが、この状況なら十分に集中できる。
(広げるに連れ、人がいなくなる……なら……)
町の端。彼の感覚は、そこまで広がっていく。
じわ、と汗が滲むが、龍力は落とさない。
研究者を襲うくらいだ。相手も、きっと龍力者だ。しかも、ここに残っているとなれば、少なからず用事が残っていることになる。
ならば、その潜伏場所が誰かにバレるのは、避けたいだろう。そのため、警戒しているはずだ。この包囲網に引っかかれば、きっと乱れる。
「!」
リゼルは目を開ける。
掛かった。
少し。ほんの少しだが、力の乱れを察知した。
「いたぞ!!東の端だ!!」
「!!」
リゼルの指示で、レイズたちは走り出す。
敵の数は一。ここで潰し、仲間の居場所を吐かせるのだ。