―実験―
店を出て早々、レイズは騎士団への怒りをぶつけている。
「騎士団は何を考えてる!?」
「……落ち着け」
「この町を捨てるってのか!?」
「……落ち着け……って、無理だな」
リゼルは形上レイズをなだめているが、自分も気持ちは同じだった。
(クラッツは何をしている?いや、そもそも騎士団は機能しているのか?)
自分たちは確実に力を付けた。それなのに、町や騎士団はこのザマだ。
敵の数も規模も分かっていない。じわじわと追い詰めれらている気がしてならない。
(王都は、無事なのか?)
ギリ、とリゼルは奥歯を鳴らす。
マナラドと王都は距離的に近い。
こんな場所を放置するのは、犯罪者グループに最高の隠れ家をプレゼントするようなものだ。
「メッセージを送らなかったのか?いや……どっちにしろ見れなかったか……?」
要求そのものを伝えるできないが、シャンバーレ滞在中の自分たちへ送るメッセージ。
それを見る機会があれば、即向かうことはできた。
ただ、町が襲われたタイミングと、シャンバーレを発ったタイミングが合ってしまえば、メッセージそのものを見ることができない。
「……(仮に)見れても間に合わなかっただろうな」
バージルはレイズに言う。
そもそも、リゼルが言っていたメッセージは、自分たちを呼び戻すためのもので、緊急事態として自分たちを動かすものではない。
シャンバーレに送り出された時点で、緊急時の対応の義務からは一時的に解放されている。
「……まだ潜んでいる可能性は?リゼル」
「……ある。ここに今、騎士団はいない。人も少ない。最高の隠れ場所だ」
「襲われたのは五日前だよ?」
「だが、ないと言い切れないのは事実だ」
ミーネは「もう大丈夫じゃない?」と言いたげだが、リゼルはそれに同意できない。
仮に倍の十日前でも、隠れるに適した場所である以上、残っている可能背は捨てきれない。
だが、研究資料を奪う連中だ。
恐らくは別の場所に移動し、解析なりしているだろう。
十分な施設や研究者がいなければ、資料だけあっても、それはただの紙切れ同然だ。
「……俺らにはその辺は分からないから、お前の勘に従うよ」
バージルは、考えることを一旦放棄した。
ない知識を振り絞っても、最適解は出てこない。分からない。
ならば、長年騎士団にいるリゼルや、一国の王であるレイラの意思を優先した方が良い。
「私も、調査は必須だと考えます」
仲間たちの視線を感じたのか、彼女も意見を述べる。
このまま王都に帰るのでは、マナラドに寄った意味がない。
「相手は龍力者だ。それも、(今はどうか分からないが)グループだ。だから、基地の監視役が最低一人はいるだろう」
「!」
「もしかして……」
マリナは閃く。
廃墟となった建物を一軒一軒調査すると思っていたが、今はそれよりも良い能力がある。
「あぁ。フル・ドラゴン・ソウルの感覚をここで試させてもらう」
「……ですね」
レイラも同じことを考えていた。が、今回は彼にその役目を譲ろう。
「…………」
リゼルは、呼吸を整えながら、彼らから距離を取った。
仲間たちは、静かにその様子を見守る。恐らく、『これ』ができるのはリゼルとレイラの二人だけだ。
索敵距離にもよるだろうが、他のメンバーはそこまで精度が高くない。
「……!」
リゼルは少しだけ気合を入れ、龍魂-ドラゴン・ソウル-を発現させる。
(集中しろ……感覚を研ぎ澄ませ……)
当然、そこで止まらない。
更に龍力を上げ、フル・ドラゴン・ソウルの領域へと力を高め、感覚を広げていく。
町は無風だが、彼の龍圧により、衣服や闇色の髪が生み出された風に乗る。
右目が隠れるほどの長さの前髪が揺れ、舞っている。
集中しているのか、目は閉じられている。
力が充実していく。精神世界で、龍と密接な距離にいることが分かる。
だが、注意しなければならない。それだけ密接しているということは、龍の意識が表に出やすいということだ。
それは、龍に意識を奪われやすいことを意味している。そこで意識を奪われれば、ある意味での暴走状態だ。
今のリゼルは、特訓を重ねている。よって、意識が奪われる可能性は低い。
龍力を高めている今も、彼は冷静だった。
(クラスト。僕は……)
そこで思い出すのは、特訓の日々。
数少ない、認められる大人からの言葉である。