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龍魂  作者: 熟田津ケィ
ー裏任務ー
163/689

―見送り―

クラストとの修行の日々は、あっという間に過ぎていった。


レイズは座学から始まり、龍力の引き出し方やコントロールの方法などを教わっていた。

他の仲間たちも例外ではなく、頭から煙が出そうなほど座学をみっちりと行った。

レイラとリゼルの二人も、基礎知識はあったものの、クラスト目線では不十分だったらしく、序盤は同メニューで進められていた。その後、各々別課題が課されるスタイルだった。


(本当に、素敵な指導者なのですね……)


遺された日数は少ない。宿に戻る途中、レイラは一人、彼の家を振り返り、目を細める。


道場での『ざっとした』指導ではなく、一人一人に合った、濃い指導だった。

パワハラに逃げることもせず、自分たちをとことん向き合ってくれた。


レイズが一週間だったのに対し、自分たちは二週間近い時間があった。

が、その差に余裕は感じることなく、詰め詰めでの特訓だった。


その二週間という期限について、宿で時間ができたときに、レイズはふとリゼルに聞いてみた。


「なぁ、期限のことだけど……なんで二週間なんだ?」

「特に意味はない。期限を設ければ臆すだろうと思っただけだ」


当時、リゼルは彼を全く信用していなかった。

そのため、適当に期限を設けて場をかわすつもりだった。

二週間と言う時間は、長いように見えて、意外と短い。半端な指導者なら、ビビッて深入りはしてこないと判断したのだが、彼は踏み込んできた。

そして、実際に『やって見せた』。その実力に、リゼルは心の奥底で本気で驚いていた。

過去に傷がある話しぶりだったが、全く気にならなかった。数少ない、認められる大人の一人だ。


「……それより、嫌なニュースを聞いた」

「嫌なニュース?」

「あぁ。過去、騎士団が取り逃がし、行方不明となっていた犯罪者……ここ最近になって姿を現している」

「え……?」

「特訓に集中していたから知らせなかったが、外はそんな状況だ」


その様子だと、知っていたのはリゼルとレイラの二人だけか。

確かに、そんなニュースを耳にしてしまえば、特訓どころではなくなる。


「ただ、帰還するようにメッセージは来ていない。が、早く戻った方が良いだろう」

「マジか」

「あまり気にするな。今その仕事は騎士団がしている。僕たちはフルとやらを身につけることに集中する」

「お前が……そう言うなら……」


ここに来た直後と違い、リゼルは冷静さを保っているように見える。

だったら、彼の決定を信じるだけだ。

レイズたちは、残された数日、そのことをあまり考えないようにし、特訓に明け暮れた。


因みに、レイラは『フレイア』と名乗り、修行を続けていた。

それでも、レイラはレイラだ。顔が変わったわけではない。王の顔を知っていれば怪しむだろう。

が、クラストはそれを一切しなかった。そもそも知らなかったのか、レイズの仲間ということで信頼したのか。それは不明だが、身分を隠したまま乗り切ることができた。



そして、期限当日。

クラストは夕日に背を向け、レイズたちの前に立つ。

彼らはボロボロの身体だが、しっかりとした眼差しで、自分を見ている。

彼は一人一人視線を交え、頷いていく。


「……これでおれの出番は終わりだ」


レイズ含め、まだフル・ドラゴン・ソウルを使いこなせているわけではないが、クラストが教えられることはもうないらしい。

ただ、間違いなくその領域に全員足を踏み入れている。

あとは、実践で慣れていくしかないそうだ。


「ありがとうございました!」

「……助かった」


フレイアは頭を下げる。リゼルも小さく礼をし、すぐに顔を上げた。


クラストとの修行で実力を大きく伸ばしたのは、レイラとリゼルの二人だった。

龍魂を元々長いこと使っていた二人は、龍魂の向き合い方や力の流れなど、すぐに適応した。

無意識のうちに形成されていたドラゴン・ソウル字のパターン。その固定観念を壊すことに関しては苦労していたが、コツさえつかめれば簡単だったようだ。

実戦で彼らの龍力を見る機会はなかったが、グレゴリーとも善戦できるレベルだろう。


バージルは物凄く苦労した。が、なんとかイメージを掴むことができた。


「何とかなったか……」

「結局追いつかれたな」


残念そうに笑いながら、レイズは彼を見る。

剣を交えたわけではないが、自分との差はあまりないように思う。

領域に足を踏み入れても、底から先は前途多難だと言うことだ。


「……実践だとお前のが上だろうな」


実戦で使うレベルにはまだ未完成だが、勝負を決めたいときや、短期戦では十分に使えるレベルだと思う。

そういう意味では、レイズの方が『慣れ』ている。彼がトライホーン・ビースト戦で見せた力を、自分が出せるとはまだ思えない。直立不動で良いなら可能だ。だが、戦闘は常に動き回らなければならないのだ。

それでも、驚異的な成長だったと思っている。


最も苦労していたのは、自然と言うべきか、マリナとミーネの二人だ。


「ありがとう、クラストさん」

「あたしがここまでできるなんて……信じられない」


だが、お互いが励ましあいながら、レイズたちも声掛けしながら乗り切った。

その結果、苦労していた龍のコントロールはほぼ完璧となった。


ミーネは集中すると暴走しやすい傾向があったが、その兆しも見られなくなった。

マリナは特定の条件で漏電が見られている。が、それは彼女の『個性』だとクラストは判断し、指導しなかった。本人は、気にしていたが。


「それも青春だぞ」

「……?」


特訓中に発せられた、意味深なクラストの言葉。

無意識に前髪をいじりながら、不満そうな顔を見せていたマリナ。

指導すれば治るだろうが、別にこの件は暴走ではない。それに、フル・ドラゴン・ソウルへの影響もない。

チャームポイントとしても見えるため、彼は指導を省いていた。


さて、肝心なのは彼女たちの程度だ。

身体の調子にもよるが、フル・ドラゴン・ソウルの域にも到達している。ただ、それを扱いながら技や術を扱うには、まだ経験が圧倒的に足りていない。

それは、彼女たちがこれから身に着けるもの。この家でできることではない。


(もう、送らないと……な……)


クラストは一頻り彼らとの日々を思い出し、最後の挨拶を交わす。


「……凄く濃い二週間だったな。おれも楽しかった」

「えぇ。本当に最高の時間でした」

「苦しかったけど、負けねぇくらい、充実してたぜ」


ここで過ごした日々は、苦しかったが、自分の成長を実感できた良い日々だった。

レイズたちはクラストに別れを告げ、彼の家を後にした。


「……ふふ、クラストさん、まだ手を振ってますよ?」

「あのオッサン、はしゃぎすぎだろ……」


クラストは自分たちの姿が見えなくなるまで、外で手を振ってくれていた。

レイズたちも何回か振り向き、手を振り返す。

別れを惜しみながらも、彼らはそれぞれの日々に戻ることになる。



クラストはレイズたちを見送った後、大きく息をついた。


「ふー……」


オレンジ色に染まったヴァイス平原。日が落ち、平原が闇に変わっていく。


(素直な奴らだ。本当に)


龍魂は、感覚的な部分が多い。歴史や知識は覚えれば済む話だが、龍力コントロールや一瞬一瞬の感覚は、言葉では伝え辛い。

龍魂の慣れの程度から始まって、当然得意不得意もある。全員が自分と別属性だ。

彼らの中に地属性がいなかったのは、クラストサイドにとっても痛手だった。

同じ属性であれば、感覚的な面でも教えやすいのだが。


(おれの感覚的な言葉にも……何とか理解しようとしてくれたな)


それでも、彼らは不貞腐れることなく、着いて来てくれた。

本当に教え甲斐のある生徒たちだった。


「達者でな、お前ら。『レイラ』様を……国を、任せたぞ」


クラストは目から落ちそうな雫を堪え、家に戻っていった。

ヴァイス平原は闇に落ち、明かりはクラスト宅からのモノだけになる。その風景は、彼の心模様を表しているようだった。

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