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龍魂  作者: 熟田津ケィ
ー無知ー
161/689

―腕は確か―

傷の手当、出血の処置が終わった。場所を水辺の木陰に移したレイズたち。

そのタイミングで、レイズは仲間たちにクラストを紹介する。


「この人がクラスト。この人に龍力を教わっていたんだ」

「おれがクラストだ。昔は地龍の道場を切り盛りしてたが、今はフリーだ。趣味は……一応山登り、か?気が強い女が好みだ!」

「…………」


自己紹介したのに、反応がない。そして、仲間たちの目は冷たい。


理由は、分かっている。

自分たちやレイズの力を試すために、トライホーンを送り込んだことを聞いたからだ。


「おい、先に謝れよ」

「……すまん。大人数相手は久しぶりで、少しパニくった」

「…………」


本当に大丈夫なのか。この人は。

だが、育成力はある。龍魂初心者の自分でさえフル・ドラゴン・ソウルの領域へ足を踏み入れることができたのだから。

ただ、その後のやり方が強引すぎる。別に実力を測るだけなら、魔物をぶつける必要はないはずだ。


「…………」


当然だが、ほとんどの仲間たちは冷たい反応だ。ただ一人、レイラだけは困ったような顔をすることしかできないでいる。

トライホーン・ビーストに襲われた不信感より、フル・ドラゴン・ソウルの感動が上回ったからだ。

それに、それでもレイズはこの人間を信用しているようだったから。


「本当に申し訳なかった。こちらのミスだ」

「ち……」


一度だけ、大きな舌打ちをするリゼル。


「……歓迎は……されてないな」

「自業自得だろ……」


レイズは、またも呆れる。

素直に水辺で力を見せていれば、こんな反応にはならなかっただろう。

が、そんなことは気に介さず、クラストは続ける。


「で、どうだった?」

「……何が?」


バージルは、ぶっきらぼうに聞き返す。


「こいつの力と、自分の力だ。特訓してたんだろ?ここで」


クラストは顎でシャンバーレの方角を示す。彼は、もう気持ちを切り替えているらしい。

確かに、謝罪を求め続けても、話は前に進まない。


「…………」

「だいたい同じ敵だ。変化はどうだ?」


そう。

自分たちは、貴重なお金と時間を使い、道場で各々修行してきた。

実際、少しレベルは上がったと感じている。が、少しだけだ。

それに比べ、レイズは凄まじい成長だった。

フル・ドラゴン・ソウルを使いこなすまではいかないものの、その片鱗を見せた。


「期限は今日だったからな。相当なスピードで教育した。それでも、ここまで来れるんだ」

「クラスト……」


振り返ってみれば、大部分を座学が占めていた。

歴史、人と龍の関係、炎龍の特徴。レイズには知識が圧倒的に足りていなかったためである。経験も大事だが、それを支える知識もバカにできない。

そのせいで龍力を使う特訓に時間を割けていないが、大幅に歩みを進めることができたのだ。

ただ、稀に知識なく龍力を扱う者もいるが、それはレアケースだ。レイズの件とは関係ない。


黙って聞いていたレイズだが、心の中では、自分を責めていた。


(確かに、正解じゃないかもしれない……けど、俺が要領よくやれてれば、睡眠時間を削らずに済んだのかも……)


クラストばかり悪人にしても意味はない。スレイの件で、少しレイズは丸くなっていた。

反応が薄い仲間を見て、彼はクラストを庇うように持論を述べる。


「あのさ、やり方は納得いかないだろうけど、クラストの力は本物だと思う。フル・ドラゴン・ソウルのことも隠さなかったし」

「それは……まぁ……」


フル・ドラゴン・ソウル。道場ではそんな言葉は飛び交わなかった。

まだそのステージにいないだけだと思っていたが、龍魂初心者のレイズが手に入れることができる力。

バージルは、クラストを完全に否定できないでいる。他の仲間も同じ気持ちのようだ。


「……道場として大人数に教えるにはリスクが高い。だから、レベルの高い道場でしか教えないんだ」

「リスク?」

「龍魂を宿している人間なら、誰でもフルになれる。理論上は、な」

「あぁ」

「だが、それの域に到達するには、いろんな意味で成熟してないとダメだ。じゃないと、龍力者の肉体を龍が蝕む。金稼ぎでそれを教える道場は少ないだろうな」


なるほど。

未熟な人間にテキトーに教えて精神崩壊でもすれば、道場の悪評が流れる。だから、トップクラスの道場でしか教えていないのだ。


だが、とクラストは続ける。


「おれなら、こいつと同様にお前らを引き上げられる」

「!!」


仲間たちの目の色が一斉に変わる。

レイズの見せた力が自分たちも使えるようになる。グレゴリーやフリアに追いつけるかもしれない。

自然と拳が強く握られる仲間たち。


やり方全てに納得できた訳ではない。だが、この機を逃せば、次なる『きっかけ』はいつになるのだろうか。

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