―腕は確か―
傷の手当、出血の処置が終わった。場所を水辺の木陰に移したレイズたち。
そのタイミングで、レイズは仲間たちにクラストを紹介する。
「この人がクラスト。この人に龍力を教わっていたんだ」
「おれがクラストだ。昔は地龍の道場を切り盛りしてたが、今はフリーだ。趣味は……一応山登り、か?気が強い女が好みだ!」
「…………」
自己紹介したのに、反応がない。そして、仲間たちの目は冷たい。
理由は、分かっている。
自分たちやレイズの力を試すために、トライホーンを送り込んだことを聞いたからだ。
「おい、先に謝れよ」
「……すまん。大人数相手は久しぶりで、少しパニくった」
「…………」
本当に大丈夫なのか。この人は。
だが、育成力はある。龍魂初心者の自分でさえフル・ドラゴン・ソウルの領域へ足を踏み入れることができたのだから。
ただ、その後のやり方が強引すぎる。別に実力を測るだけなら、魔物をぶつける必要はないはずだ。
「…………」
当然だが、ほとんどの仲間たちは冷たい反応だ。ただ一人、レイラだけは困ったような顔をすることしかできないでいる。
トライホーン・ビーストに襲われた不信感より、フル・ドラゴン・ソウルの感動が上回ったからだ。
それに、それでもレイズはこの人間を信用しているようだったから。
「本当に申し訳なかった。こちらのミスだ」
「ち……」
一度だけ、大きな舌打ちをするリゼル。
「……歓迎は……されてないな」
「自業自得だろ……」
レイズは、またも呆れる。
素直に水辺で力を見せていれば、こんな反応にはならなかっただろう。
が、そんなことは気に介さず、クラストは続ける。
「で、どうだった?」
「……何が?」
バージルは、ぶっきらぼうに聞き返す。
「こいつの力と、自分の力だ。特訓してたんだろ?ここで」
クラストは顎でシャンバーレの方角を示す。彼は、もう気持ちを切り替えているらしい。
確かに、謝罪を求め続けても、話は前に進まない。
「…………」
「だいたい同じ敵だ。変化はどうだ?」
そう。
自分たちは、貴重なお金と時間を使い、道場で各々修行してきた。
実際、少しレベルは上がったと感じている。が、少しだけだ。
それに比べ、レイズは凄まじい成長だった。
フル・ドラゴン・ソウルを使いこなすまではいかないものの、その片鱗を見せた。
「期限は今日だったからな。相当なスピードで教育した。それでも、ここまで来れるんだ」
「クラスト……」
振り返ってみれば、大部分を座学が占めていた。
歴史、人と龍の関係、炎龍の特徴。レイズには知識が圧倒的に足りていなかったためである。経験も大事だが、それを支える知識もバカにできない。
そのせいで龍力を使う特訓に時間を割けていないが、大幅に歩みを進めることができたのだ。
ただ、稀に知識なく龍力を扱う者もいるが、それはレアケースだ。レイズの件とは関係ない。
黙って聞いていたレイズだが、心の中では、自分を責めていた。
(確かに、正解じゃないかもしれない……けど、俺が要領よくやれてれば、睡眠時間を削らずに済んだのかも……)
クラストばかり悪人にしても意味はない。スレイの件で、少しレイズは丸くなっていた。
反応が薄い仲間を見て、彼はクラストを庇うように持論を述べる。
「あのさ、やり方は納得いかないだろうけど、クラストの力は本物だと思う。フル・ドラゴン・ソウルのことも隠さなかったし」
「それは……まぁ……」
フル・ドラゴン・ソウル。道場ではそんな言葉は飛び交わなかった。
まだそのステージにいないだけだと思っていたが、龍魂初心者のレイズが手に入れることができる力。
バージルは、クラストを完全に否定できないでいる。他の仲間も同じ気持ちのようだ。
「……道場として大人数に教えるにはリスクが高い。だから、レベルの高い道場でしか教えないんだ」
「リスク?」
「龍魂を宿している人間なら、誰でもフルになれる。理論上は、な」
「あぁ」
「だが、それの域に到達するには、いろんな意味で成熟してないとダメだ。じゃないと、龍力者の肉体を龍が蝕む。金稼ぎでそれを教える道場は少ないだろうな」
なるほど。
未熟な人間にテキトーに教えて精神崩壊でもすれば、道場の悪評が流れる。だから、トップクラスの道場でしか教えていないのだ。
だが、とクラストは続ける。
「おれなら、こいつと同様にお前らを引き上げられる」
「!!」
仲間たちの目の色が一斉に変わる。
レイズの見せた力が自分たちも使えるようになる。グレゴリーやフリアに追いつけるかもしれない。
自然と拳が強く握られる仲間たち。
やり方全てに納得できた訳ではない。だが、この機を逃せば、次なる『きっかけ』はいつになるのだろうか。