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龍魂  作者: 熟田津ケィ
ー無知ー
160/689

―助け―

トライホーン・ビーストのナメた攻撃にも、何とか対応し、反撃を入れていくレイズ。

だが、本気で限界が近い。


(やべぇ……もう……!)


大きく息をしながら、仲間たちの方を見る。

距離があり確認しにくいが、応急処置は終わったみたいだ。


少しホッとした瞬間、トライホーン・ビーストが吠えた。


「ッ!!」


レイズは咄嗟に身構える。が、力が抜け、思うような構えができないでいる。自分の剣すら普段より重く感じる。

必死でトライホーンを睨みつけ、威嚇っぽいことをして見せるが、本物の野生相手に効果はない。

じりじりと距離を詰められてしまう。涎が草木に落ち、垂れていく。

その粘っこさに、本気で恐怖した。

生きたまま食われて死ぬのは、本当に勘弁だ。


(どうする……どうする……!?)


焦りと不安。

心臓がバクバクうるさい。


(クソ……!)


レイズは辺りを見回す。何が目くらましになるようなものはないか。

だが、そう都合よく、周囲に使えそうな物は落ちていない。


と、その時、レイズは目の端で何かを捉えた。


(あれは……!!)


上手く隠れているつもりだろう。が、障害物のない平原では、それも限界がある。

そして、レイズはその『何か』を知っている。


「……いるんだろ!?助けてくれ!!!」

「!?」


喉が潰れてもいい。レイズは本気で叫んだ。

トライホーン・ビーストが一瞬怯む。レイズの声に怯んだのではなく、『新たな敵の出現』に怯んだのだ。

魔物は人語が分からないが、トライホーン・ビーストのように知能が高い魔物の場合、少し異なる。

相手の目の動きや、場の雰囲気、声色で、ある程度の状況は理解できてしまうのだ。


今回のケースは、『新たな敵の出現』だ。

させるものか。今、勝負を決めてやる。


そう判断したのか、レイズの向いた方向に目もくれず、襲い掛かってきた。

前脚の爪が、太陽光に反射して不気味に光る。


「ッベ……!!」


今の、レイズに『それ』を防御できるほどの龍は残されていない。

すぐさま横に転がり、直撃を避ける。


間一髪。本当にギリギリだった。

しかし、あれが最後の力。


転がった後で、体勢も崩れている。起き上がれるほどの力もない。ただ闇雲に手足を動かしているだけ。

仲間たちは、自分の異変を感じ、走っているようだが、距離があり過ぎるし、間に合ったところで、先程の二の舞である。


だから、見つけた瞬間、迷わず叫んだのだ。


避けたレイズの方へ向き、威嚇するトライホーン・ビースト。

次の瞬間、トライホーン・ビーストの横腹に巨大な岩が飛んできた。


「!!」


バキバキ、と骨が折れたような音を立て、トライホーンは顔を歪める。

レイズは、岩が飛んできた方向へ顔を向ける。その顔は、思わず笑みがこぼれていた。


「……ロックシュート」


大きな剣を肩に携え、手を前に出しているクラスト。

殺しまではしていない様子だ。しかし、レイズは慌てない。勝負は既に決まった。そして、彼は無駄な殺しはしない。


体勢を整えた後、トライホーン・ビーストは歯を見せ、恨むように喉を鳴らす。


「グルルルル……」


視線は、レイズではなく、術者に向いている。

勝てないと判断したのか、トライホーン・ビーストはよろよろと方向転換し、レイズに尻を向け、歩き出した。


近付いてくる師匠を見て、本気で毒づくレイズ。


「おせぇよ……アホ」

「すまんすまん」


ニヤニヤと笑いながら、クラストは久しぶりに取った弟子を見る。

満身創痍。体力・龍力共に空に近い。


「……だいぶ消耗したな」

「あぁ……昨日よりしんどいぞ」


先日も練習で『あの状態』にはなっていた。

非戦闘時での訓練であり、実際の戦闘では、先日の比にならないレベルの消耗だ。

分かっていたことだが、想像は超えていた。


「いや、あれだけできれば十分だ」

「ん……?」


レイズは引っ掛かった。

『あれだけできれば』ということは、少なくともフル・ドラゴン・ソウルになった後の自分を見ていたことだ。

つまり、それなりに前から到着していたのか。


「おい、クラスト。俺はハメられたのか?」

「……人聞きの悪いことを言うな。仮にも師匠だぞ」

「質問に答えろよ、セ・ン・セ・イ」

「……あの魔物は、俺が向かわせた」

「ち……」


やっぱりか。

数日しかいなかったが、あの水辺に大型の魔物が近づいたことはない。

いても小型で、戦闘を好まないヤツが多かった。

それなりに、成果を見せる当日にこの状況。時間もほぼピッタリ。出来すぎているとは思っていた。


「因みに、お前に飲ませたアレは、睡眠薬だ。強烈な、な」

「な……!!」


異常な眠気と、戦闘中なのに目覚めない程の深い眠り。

あれは、クラストが仕込んだ物だったのか。


「体力回復!じゃないと、身体が耐えきれない」

「……それで仲間が危険な目に遭ったんだが?」


レイズはクラストを睨む。

師匠でも、やって良いことと悪いことがある。


「それは本当にすまんかった。おれのミスだ」


自然起床するタイミングで送り込む算段だったが、思いの外トライホーン・ビーストの動きが良く、早く辿り着いてしまったのだと。


「本当にすまない。ただ、本気でヤバかったら間に入るつもりだった」

「あれはあれでヤバそうだったけどな。ま……ちゃんとあいつらにも謝れよ」


眠っていて戦闘を見ていない身分であまり強く言えないが、仲間たちは(無傷ではないが)無事だった。

ここでは、それが全てとなるのか。

だが、詫びは必要だ。


「あぁ……言っておく。これで信用が落ちてしまったかな」

「かもな。けど、『力』はホンモノだ。それに、『ヤツ』を送り込んだのも、理由があんだろ?」

「……『アイツ』を選んだのは、一度に負けたことも聞いていたしからな。実戦で見せた方が分かりやすい」


クラストは、トライホーン・ビーストが歩いて行った方向を見る。

もう姿は見えなくなっていた。ただ、草が倒れ、足跡がわりになっている。


リゼルは「追いかけて殺す」と言うだろうか。そうなれば、無駄な戦いが増える。見せない方が良いだろう。


「……おんなじ奴か?」

「まさか、別個体だろ」

「何体もいるのかよ……」


レイズはげんなりする。本当に運が良かった。

あんな魔物に毎回出くわしていたのでは、命がいくらあっても足りない。


「ま、とにかく、力の成果は見せれたんだ。お前の仲間に挨拶しないとな……謝罪も、か」


レイズに睨まれ、真面目な顔で付け足すクラスト。

とにかく、当初の予定通り、『力』を見せることはできた。

が、レイズ仲間たちは意味もなく、巻き添えを食らった形で怪我をしてしまった。


(すまない、レイズ。彼らの本気も見たかったんでな……)


クラストの教えは確かだが、こんなやり方では素直に喜べない部分がある。

流レイラ限定過保護リゼルが何と言うか、だが。


「……困ったセンセイだな」


レイズは、ただただため息をつくことしかできなかった。

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