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龍魂  作者: 熟田津ケィ
-全ての始まり-
16/689

闇色の髪の少年

猪によって巻き上げられた砂煙。そんな戦場で、バージルと騎士団員は立ち尽くしていた。

戦場を支配している、血の臭い。これが、猪のモノなのか、レイズのモノも含まれているのかが判別できない。

牙を叩きつけた猪も、大技の後なのか、動きが見えない。可能性がゼロではないが、あの状況で逃げられたとは思えない。


「クソ……」

「逃げてくれれば……」


項垂れるバージル。騎士団の団員は、ただ悔やむことしかできない。

もっと強く逃げるよう勧めておけば。無理やりにでも逃げるようしておけば。

後悔の念が渦巻く。

ふと、同じように呆然としている少年が目に入る。自分の使命は、この少年だけでも逃がすことだ。


「君だけでも……逃げろ……」

「ッ……」


力ない隊員の声。バージルは何も言えなかった。いつまでもここに留まることは良くない。

しかし、猪は生きているはずだ。

だが、先程の戦闘でよく分かった。この得物では、太刀打ちできない。

これ以上、団員の足は引っ張れないのだ。が……


(けど、もう退けねぇ……)


遺体を持ち帰り、死で詫びる。

そう決心し、バージルが密かに杖を握り直した直後だ。


「危なかった~!!まじで!!」

「「!?」」


と、レイズが砂煙から咳をしながら出てきた。普通に。大きな怪我は確認できない。


「レイズ!!無事だったのか!?」

「なんとかな」


団員も安堵の表情を浮かべる。


「良かった……」


でも、なぜ?

あの距離では、まず牙の一撃からは逃れられない。生還できた理由は、砂煙が晴れた後、明らかになった。


「黒い……剣……?」


猪の体を、黒い、大きな剣が貫き、少しだけ浮いている状態だった。


「龍術……!!」


バージルと団員は、すぐに理解した。

龍力による魔法。龍術だ。


龍力で一時的に具現化した闇の剣。それが猪を貫いた。その瞬間に体勢が崩れ、レイズは攻撃範囲から逃れたのだ。


自分を救ったであろう技。しかし、教育期間中は出てこなかった言葉。


「龍術?」

「……龍力の扱い方の一つだ。詠唱……長い溜めが必要な分、高威力が出しやすいんだ」

「へぇ……」


レイズは猪を観察する。

猪はそれが致命傷になったのか、その場から動けないでいた。呼吸も浅く、死ぬ直前、と言った感じだ。

闇の剣は、しばらくすると、点滅して、消えた。術者が解いたのだろう。

剣による支えが消えたため、猪は力なくその場に倒れる。


「あの力は……」


闇の剣。

団員は、その力を知っている。

彼の顔に、一気に緊張が走る。


「リゼル……さん」

「リゼル?」


レイズたちが服についた砂を払っていると、足音が聞こえてきた。


闇色の髪をもつ、小柄な少年だ。

歳はレイズたちと近い。片目を隠すように前髪を伸ばしている。

手には、金色よりもやや白に近い曲刀が握られている。高そうな装飾だ。


騎士団の服の装飾が、そこにいる団員よりも豪華であり、地位が高そうな人物であることは容易に想像できた。


「一般人を巻き込むな。無能が」

「……申し訳ありません」


開口一番、きつい一言が飛んでくる。見た感じ、共に戦った団員の方が年上だが。

しかも、彼はしっかり「逃げろ」と伝えてくれた。その忠告を無視し、逃げずに勝手に戦いに参加したのは自分だ。自分たちだ。


「ちがう!俺が勝手に戦ったんだ!」

「なら、貴様も同罪だ。手間を増やすな」


足手まといだ。とリゼルと呼ばれた少年は吐き捨てる。


「お前が……」

「何だ」

「ち……別に」


お前が取り逃がしたから、猪はこちらに逃げてきたのではないのか?

その言葉を飲み込み、レイズは黙る。


「今ので最後だろう。先に戻れ。処分は追って伝える」

「は!!」


隊員は敬礼し、ミナーリンへと走り去った。処分ということは、彼は罰せられるのか。

静かに唇を噛むレイズ。


そんなレイズを無視し、闇色の髪の少年リゼルは剣を納め、自分たちに顔を向ける。


「おい、ライセンスを見せろ」

「は?」


初対面で「貴様」や「おい」と冷たく言われ、苛立ちを感じるレイズ。

なぜこんなにも偉そうなのか。それに、ライセンスとは何だ。

レイズはバージルをつつく。


「んだよ。それは」

「……俺はあるが、こいつには、ない」


バージルは質問に答えず、リゼルに伝える。

伝え終わると、彼はレイズを守るように一歩前に出た。

不穏な空気を感じ取り、レイズも身構える。


「な、何だよ……?」


リゼルは小さく息をつく。


「……そういうことか」

「……そうだ」


今のやり取りで何が分かったのか。レイズには分からなかったが、バージルとリゼル間で話は通じているらしい。


「名前は」

「俺はバージル。こっちは、レイズだ」

「レイズ。お前を連行する。貴様も来い。バージル」

「はぁ!!??なんでだよ!!??」


突然のことに、自然と声が大きくなる。

バージルは静かに語りかける。


「レイズ。騎士団の活動に進んで参加するのは、基本的に問題ない。そういうのが好きな龍力者もいるしな。けど、俺たちは明らかに力不足だった。それは、騎士団の活動を邪魔したことになる」

「なんだそれ!?」

「……聞こえてたと思うけど、あの人にも、何らかの処分が下る可能性がある。可能性ってか、確実だろうな……」

「は!?え!?おい!!あの人は悪くないだろ!!俺が勝手にやったんだ!!」

「俺は結果を話してる。確かに、彼一人戦わせるのは酷だったかも知れない。けど、これは『暗黙の了解』だ」


有無を言わさぬ『暗黙の了解』の言葉。


「だったら、言ってく「言えば、逃げたか?」


レイズの反論を遮り、バージルは言う。

その目は酷く冷たい。睨まれているようだ。


「説明すれば、お前は逃げたか?レイズ」

「ッ……!!」


レイズは、シンプルに人助けだと思ってやった。

しかし、それは「自分の能力に見合っている場合」だ。

能力が足りていないのに手を出すことは、キツイ良い方をすれば、迷惑行為だ。

団員から見れば、猪と戦うだけでなくなる。レイズとバージルを守りながら戦わなくてはならなくなるのだ。


彼一人で勝てたかどうかは重要ではない。

一般人を逃がせなかった落ち度。彼はそこを責められ、処分を受けることになる。


「クソが……」


レイズは力なく肩を落とす。


「話はついたな。行くぞ」


彼の手首に、重たい拘束具が付けられた。

自分は、間違っていたのだろうか。三人で戦った方が勝率は高いと思ったのだが、大きなお世話だったのだろうか。

何とも言えないスッキリしない黒い思いが彼の心に渦巻いていく。

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