―力の浪費―
(ここで戦うのはマズい……!)
レイズは動けない仲間からトライホーン・ビーストを引き離すため、全く関係ない方向へ走り出した。
角を破壊され、トライホーン・ビーストも怒り狂っているだろう。
「こっちだ!!バカ!!」
わざと大声を出し、注意を引き付ける。
その甲斐あって、トライホーン・ビーストは他の敵には目もくれず、こちらに走ってきている。
(よし、釣れた)
普通の追いかけっこでは勝ち目はないが、今のレイズは龍魂の限界を超えつつある。
身体能力も、通常時や龍魂時よりもはるかに高まっている。捕まらないように走るなど容易い。
レイズとトライホーン・ビーストが十分に離れたところで、マリナはレイラに駆け寄る。
「レイラ、手当てを……」
頭や手からの出血は止まっていたが、一応包帯を巻いておく。
ミーネは、リゼルとバージルを診ている。あちらも応急処置をしているようだ。
「他に痛むところは?」
「……えぇ……大丈夫です。ありがとうございます」
これくらいなら、簡単な治癒術を掛けておけば、後は自分で治せる。
それだと、今戦うことはできないが、ここはレイズに任せて良いだろう。
「……それにしても」
「ん?」
レイラは、レイズとトライホーン・ビーストが走っていった方へ顔を向ける。
普通なら追いつかれそうな身体能力の差だが、レイズは捕まらず、距離を取れている。
身体能力の向上もそうだが、龍力の成長も素晴らしかった。
「凄い力でした」
「……そうだね」
マリナも同意する。
あの力は、明らか龍魂-ドラゴン・ソウル-を超えている。
グレゴリーが発揮した力に近いものを感じた。
「フル・ドラゴン・ソウル……私たちも学ぶ必要がありそうです……」
「うん。わたしも、そう思うよ」
「リゼルとバージルも診ないと……」
痛みを我慢しながら、レイラは立ち上がる。
治癒術で傷は治ったが、痛みは残る。だが、立てる。歩ける。
彼らにも簡単な治癒術を掛け、傷を治した。これで皆を立て直すことができた。
回復後、リゼルは即レイズを見る。
「……あれか」
仲間たちから十分に離れた場所で、レイズとトライホーン・ビーストは戦っていた。
距離はあるが、肉眼で戦闘の様子は見える。凄まじい力だ。
羨望の眼差しで見られていることにも気付かず、力を放出し続けているレイズ。
戦闘内容は互角であるが、自分は体力消費が敵の比ではない。
無理して戦っている自分と、自然体で戦っている敵。
どちらが長く戦えるかは、火を見るよりも明らかである。
(クソ……スタミナが……!!)
龍魂の限界を超え、フル・ドラゴン・ソウルとやらの力に目覚めつつあるレイズだが、この状態で戦うのは初めてだ。
力は引き出せても、その状態で戦い続けるには、まだ経験が乏しい。
常に全力。聞こえは良いが、力の抜きどころが分かっていない。それでは、すぐにくたびれてしまう。
剣の様な鋭い爪。
まともに食らいかけるも、剣で何とかガードする。
「ぐうっ!」
轍を作りながら、レイズは後方に滑っていく。
その顔には、明らかな焦りの色が浮かんでいる。
この一週間で得た、新たな力。圧勝できるとは思っていなかったが、ここまで苦戦するとも思っていなかった。
(時間はかけられない……!!)
苦戦している理由は明らかだ。
戦闘が長引いていることで、レイズの集中力が落ちてきている。
初手は目覚めの一発でそれなりの力を出すことができたが、そこからは下り坂だった。
現在も攻撃の応酬の真最中だが、押され気味だ。
トライホーン・ビーストに追いつかれないように走ることにも龍を使い、今戦っているこの時間も龍を使っている。
それも、龍魂とは比較にならないレベルの龍を。
歯を食いしばり、自分を奮い立たせるが、それで龍力は高まらない。
(力が……抜ける……!!)
それどころか、力は抜けていく一方だ。
強大な力で戦い続けるには、膨大な体力と龍力を消費する。
それも、力の使い方が下手だと『浪費』と言い換えても問題ないレベルの力を。
「……!!」
戦っていて、敵の力が落ちていることにトライホーン・ビーストも気づいたのだろう。
防御寄りで、こちらの様子を見ながらだったのが、攻撃寄りにシフトしている。
この傾向はマズい。自分は、嬲り殺される。
当然、残された仲間も。