―レイズの龍力―
全身に電気が走ったかのような痛み。
「いてて……」
激痛が走ったが、割と気分は悪くなかった。
時間としてはそんなに眠っていないのだが、久々にゆっくりできた気がする。
レイズは寝ぼけまなこで辺りを見回す。頭はまだ回っていないのだが、緊急事態であることはすぐに理解できた。
「レイズ!!助けて!!」
「も~ムリ!!」
目の前で戦っている、マリナとミーネ。
戦っている相手は、トライホーン・ビーストだ。大きい。
更に離れたことろに、バージル、レイラ、リゼルが座り込んでいる。
全員血だらけで、戦える状態にない。
今まで、ずっと自分抜きで戦ってきたのか。
「クソ!!」
ここ最近十分に眠れていなかったが、これは酷い。
仲間が戦っている音にも気付かず眠り続けていたとは。
(何やってんだ俺は!!)
レイズは立ち上がり、剣を構えながら龍力を高める。
寝起きゆえに、上り幅は普段より小さめだ。
トライホーン・ビーストがレイズの存在を確認した。
その瞬間、敵が増えたと判断したのか、マリナを爪で攻撃する。
「きゃあッ!!」
剣で身は守った者の、威力を殺すことはできず、彼女はレイズの遥か後方へと突き飛ばされる。
彼女と自分が入れ替わるような形だ。
「マリナ!!クソ!!」
レイズは頬を強く叩き、クラストとの修行の日々を思い出す。
「行くぞ!」
叫び、自分を鼓舞する。
走りながら、身体に纏う龍力を血液のように流動させる。
その流れを剣まで広げ、更に龍を高めていく。
「え……?これが……レイズ?」
横で見ていたミーネは驚く。以前のレイズとは文字通り『格』が違う。
纏う龍の大きさ、流れ。感じる圧力も、グレゴリーのそれに近い。
自分たちも道場でレベルを上げたつもりだったが、レイズの成長は本当に格が違った。
驚いているのはミーネだけではない。
「あれが……!?」
「なんてこと……」
「…………」
バージル、レイラも驚いている。
リゼルは何も言わない上に顔にも出さないが、内心穏やかではなかった。
自分より遅くに龍力を得ている彼に、サクッと抜かされた。
求めていた力を、レイズが手にしている。
更なる強さを手に入れる可能性が出てきた半面、悔しさもある。ギリ、と奥歯を鳴らすリゼル。
クラストとやらの指導力は、本物のようだ。
吹き飛ばされたが、何とか着地に成功したマリナ。
「あれが……フル・ドラゴン・ソウル……?」
深手を負ってはいないが、龍力を防御に使ってしまい、体力がゴッソリ持っていかれた。流石に前衛で戦える状況にない。
自分は、もう邪魔しないよう下がって見ていることしかできない。
「あぁぁぁぁぁぁああ!!」
炎を纏い、レイズがジャンプする。
10メートルは跳んだだろうか。跳んだタイミングで、龍力を下方向に放出させたのだろう。それで飛距離を稼いでいる。
トライホーン・ビーストは、レイズを見失わぬよう、顔を上げた。
人間は、空中で自由に動けない。長年の戦闘でそれを理解しているトライホーン・ビーストは、着地地点を計算し、そこに陣取る。
そこで、肩を上げ、構えた。生えた角で迎え撃つ気だ。
(知能たけぇな、けど……!)
レイズもすぐにトライホーン・ビーストの意図を理解した。そうはさせるか。
空中で一回転し、その勢いのまま回転を続ける。
炎を纏った高速回転のタイヤが落ちてくるようだった。
そして。
「爆炎龍綸墜!!」
トライホーン・ビーストとぶつかる瞬間。剣を思いきり振りかぶり、肩の角に振り下ろした。
その一撃には、回転スピードと重力、龍力が乗算される。
「!!」
バキ、と大きな音が辺りに響く。その後、トライホーン・ビーストの角にヒビが走る。そのヒビから、炎が噴き出した。角はそのまま燃え果てて、バラバラと砕けていく。
トライホーン・ビーストの堅い角を、レイズが破壊したのだ。
流石に痛いのか、悲痛そうな咆哮を上げながら、のたうち回っている。
「やった!」
「すげぇ……」
バージルたちは、開いた口が塞がらなかった。
今見ているのは、現実だろうか。
少し前まで龍魂-ドラゴン・ソウル-の『ド』の字も知らなかった人間が、騎士団長を凌ぐ力を手に入れている。
自分たちの可能性が、一気に広がった気がした。