―起きなさい―
二対一になり、苦しい戦闘を強いられている。
多少慣れたとは言え、マリナもミーネも、龍魂はまだまだ初心者である。
(諦めたくない……!!けど……!!)
強大な敵に、二人で勝てるはずもない。
トライホーン・ビーストもそれを理解しているのか、いつの間にか攻撃が『一撃必殺』から『なぶり殺し』へと変化している。
格上と戦うスタイルから、弱者を追い詰める戦いへと変化したのだ。
明らかにナメられている。
マリナは汗を拭い、剣を握り直す。
(悔しい……けど!!)
そこに付け入るスキがある。
しかし、更に悔しいことに、スキはあっても、そこを突けるほど、自分は実力が伴っていなかった。
ミーネも、戦いながら同じことを考えていた。
(こいつ……手を抜き始めた……?)
自分が繰り出す龍力で、深手を負うことはない。と、トライホーン・ビーストに判断されたということだ。
道場では、確かに龍力に慣れ、力の底上げに成功した。が、それだけだ。
実践レベル、で使えるほどの龍魂ではなかった。
(けど!諦めたくない!!)
ミーネは剣を掲げ、力を充填する。
そして。
「絶氷刃!!」
氷の刃を飛ばした。剣の軌道が氷の刃となり、飛ばす技。
シンプルな技だが、距離があっても使うことができる。そして、龍力もそれなりに大きい。
(当たって……!)
が、トライホーン・ビーストに当たることなく、爪で弾かれてしまう。
力負けしたため、氷は砕けてしまう。欠片は地面に転がり、青色の粒子となって消えていく。
「く……!」
ショックを受けているミーネを背に、マリナは懸命に剣を振る。
しかし、効いている感覚がない。
ミーネも頭を切り替え、攻撃に参加する。しかし、戦況は変わらない。
じりじりと後退している二人。
「え……?」
「そんな……!」
気付けば、水辺付近まで後退していた。
じりじりと追い詰められていたらしい。それにも気づかないとは。
レイズは、相変わらず木陰でスヤスヤと眠っている。
彼女らはそれを見ると、無性に腹が立ってきた。
(あのバカ……)
(レイズ……まだなの?)
疲れているのは分かる。
とてつもない努力をしているのは、彼を見ていれば分かった。
食事もあまり摂らず、睡眠時間も削って勉強していた。
今朝もエネルギーバーやドリンクを摂取しながら、参考書やノートをめくっていた。
先ほどまでは、それだけ苦労したのだから、寝かせてやろう。という気でいたが、仲間たちが戦っている。
それも、格下相手ではない。格上相手に戦い、全滅の危機なのだ。
それに、レイズが行動可能状態であれば、戦う必要がなかったかもしれない相手だ。
(いい加減に……)
マリナは手に小さめの龍力を込める。
程なくして、バチ、と手に雷が走る。
「マリナ!?」
それを見たミーネは、彼女がやろうとしていることを理解した。
そして、すぐに彼を見る。
(レイズ……戦える……!?)
寝起きで戦えるとも思えない。自分なら、寝起きで龍をコントロールするなど無理な話だ。
が、このまま何も知らずに眠り、起きたときにはすでに全てが終わっていた。そんなのはレイズだってやるせない気持ちになるだろう。
「……起きなさいッ!!」
「ぎゃんッ!!」
レイズの身体に雷を落とした。
彼は、今までにマリナたちが聞いたことのないような叫び声を上げ、飛び起きた。
一週間の特訓の成果。そして、クラストとやらの講師としての実力。
非常に強引だが、ここで見せてもらおう。