―再戦―
「!!」
リゼルたちは、咆哮が聞こえた方へ一斉に向いた。
距離はあるが、大型の魔物が確認できた。
魔物はこちらを向いており、自分たちの存在を認識しているようだった。
「レイズ!!起きろ!!敵だ!!」
バージルはレイズの身体を揺すったり叩いたりするが、反応はない。
気持ちよさそうな寝顔。静かに寝息を立てている。
よっぽど疲れていたのだろう。タイミングが非常に悪い。
「リゼル!起きないぞ!?」
「……やるしかない」
大型の魔物は、こちらに向かって走っている。
「そんな……!!」
距離が近づくうちに、魔物の種類が分かった。
トライホーン・ビースト。以前と個体は異なるだろうが、再戦である。
「出るぞ。このバカに近づかせるな」
「はい!」
トライホーン・ビーストがここに来るまで吞気に身構えていれば、無防備なレイズは真っ先に標的にされる。
非常に面倒で納得がいかないが、それだけは避けなければならない。
「ち……踏んだり蹴ったりだな」
「そう言うなって」
バージルはリゼルをなだめ、走り出す。
道場で上昇した龍力、仲間たちに披露してやろう。
「この力、試させてもらうぜ!」
彼は剣を回しながら、風を生む。
跳び上がり、トライホーン・ビーストの角を狙った。
「風爆砕!!」
ごり、と重々しい音が辺りに響いた。
角の破壊には至らなかったが、それにダメージを与えることはできた。
レイラは剣に龍力を充填していく。新たな力を得たのは、バージルだけではない。
「光刃閃!!」
素早い剣技で、レイラはトライホーン・ビーストの前脚を狙う。皮膚を割き、血が滴る。
龍力が上がったことにより、以前より深く斬りつけることができていた。
トライホーン・ビーストは少し怯み、身体が一瞬硬直する。
「今です!!行けますよ!!」
「ありがとう!フリーズソード!!」
氷龍の紋章がトライホーン・ビーストの頭上に描かれ、そこから氷の剣が出現する。
「貫けッ!!」
ミーネの龍術の直撃に合わせ、マリナは技を叩き込む。
「雷龍砲!!」
自身そのものを雷龍の頭部に見立て、剣を大砲として龍力を放出する技。
放出時の衝撃で、彼女は轍を描きながら後退する。
「~~~~~!!」
氷の剣と、雷龍砲。
二つの属性の龍がトライホーン・ビーストを襲う。
ミーネとマリナの前に、脇から黒い影が現れた。
リゼルだ。闇龍のオーラを纏い、剣先まで龍力が満ちていく。
「龍崩絶血剣!!」
スキを作らず、リゼルが大技を撃ちこんでいく。
以前は全く怯ませることができなかったが、連続怯みにより、動きを封じることができている。
「……行けるぞ!!」
「攻撃を止めるな。畳みかける」
お互いがお互いの邪魔にならないよう位置取り、トライホーン・ビーストに攻撃を加えていく。
皮膚を裂き、血が舞う。楽勝だと思われた、その瞬間。
「!!」
トライホーン・ビーストは、またも咆哮を上げ、大地を前脚で強く叩いた。
魔物を中心に、円状に草が薙ぎ倒される。そして、大地が割れるほどの地響き。
凄まじい轟音だったが、それでも、あのバカは起きない。
「すっげぇ揺れだ……!」
バージルたちは、揺れに耐えきれずしゃがみ込み、衝撃に備えてしまった。
しかし、それはマズかった。
「攻撃、来ます!!」
トライホーン・ビーストが大地を駆ける。
「……!!」
揺れで、こちらの動きを制限する。
そうなれば、攻撃が避けられることはない。そこを狙われた。
「ガードしろ!!」
筋肉隆々な脚に、剣のように鋭い爪。
トライホーン・ビーストはそれを高く掲げる。
太陽光に反射し、鋭い爪が光る。
それで、彼らは薙ぎ払われてしまう。
「ぐわああぁぁぁぁああ!!」
「きゃあぁぁぁぁあ!!」
龍力を高め、武器でガードの体勢は取っていたものの、流石にその超強力な薙ぎ払いを防ぎきることはできなかった。
前衛にいたバージル、レイラ、リゼルは大ダメージを受ける。
吹き飛ばされた後、彼らは地面に落ちた。
「く……ッ!!」
「ッ……!」
「ち……」
意識は保たれているようだが、戦えるだろうか。
彼らは武器を支えに何とか起き上がろうとするも、自分の血で手が滑り、立つことができない。
皆傷口を押さえ、痛みに顔を歪めている。
後衛に位置していたマリナとミーネ。
レイラとリゼル。バージルまで一瞬でやられた。そのため、一瞬で空気が変わる。
開いた口が塞がらず、瞬きをも忘れる。
「「…………」」
自分たちは、まだまだ弱い。
(無理……けど、わたしたちでやらないと……)
マリナは一瞬で判断した。
この約一ヶ月で、トライホーンとの実力の差は確かに小さくなった。
だが、それを追い抜くことはできなかったのだ。