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龍魂  作者: 熟田津ケィ
ー無知ー
155/689

―約束の日―

昼はクラストの所で講義と特訓。夜は、翌日のテストのための勉強。

テストでいい点を取れなければ、恐ろしいペナルティがあると聞き、レイズは必死になって勉強した。


時にはノート数冊をびっしり板書し、時には魔物と戦った。

格下限定であるが、魔物相手に謎のハンデを背負い戦ったこともある。龍力30%以上禁止、この円から出るの禁止など。

そして、クラストとも戦った。しかも、割と本気で。

当然負ける。負け続ける。だが、彼からの評価は、『これで良い』とのことだった。

ストレス解消の捌け口にされているのでは?と不信感を抱くこともあったが、パワハラのような高圧的態度をとられることはなく、関係性自体は良好だった。


だが、特訓ははやり苦しい。レイズは逃げたかった。

が、逃げなかった。逃げても、行く当てはない。それに、楽しい瞬間もある。

今なら、スレイの気持ちが本気で理解できる。これだけ勉強・特訓しても、結果が出ないのは、本当に、本当に苦しい。


一週間は、一瞬で過ぎた。

休日の朝、レイズたちは仲間を連れ、約束の場所へと向かった。


「……で、レイズ、調子はどうなんだ?習得できたのか?」


道中、レイズに話しかけるバージル。彼は、本気で感心していた。

レイズは一週間を乗り切った。乗り切っただけでは意味がないのだが、彼の努力は見ていてわかる。

見れたのは宿内での姿だけだが、そこだけでも、相当な修行だったことが理解できる。


「え……何か言ったか……?」

「いや、フル何とかを習得できたのかって」


彼は、目の下にクマを作っていた。顔色も悪い。

睡眠時間は取れているのだろうか。

とんでもないブラックな修行をしたと想定される。

今朝も栄養ドリンクなのか、見慣れないデザインのドリンクを飲んでいるのを見かけた。


「あぁ……しんどいぜ」

「いや……そうじゃなくて……」


『フル・ドラゴン・ソウル』について聞きたかったのだが、その返事は帰ってこなかった。

バージルは他の仲間と顔を見合わせながらも、大人しくレイズに付いて行く。

彼と目が合ったレイラ。彼女は困ったように肩を竦める。


「……行くしかないようですね」

「みたいだな」


程なくして、レイズは足を止める。

クラストと出会った水場に到着した。


「……良い場所ね」


マリナは周囲を見渡す。

数本ある大きめの木が、葉をたっぷりと付け、巨大な影を作っている。

木の近くには大きな水場。水が湧いているのか、水場の底から流れができている。

湧き出た水は、細い緩やかな川となり、どこかへ流れている。


「ついた……」


その瞬間、レイズは座り込み、大きく息をつく。


「……しんど」

「…………」


本当に同い年だろうか。バージルは今のレイズを見て、同年代と思えない。

それくらい、レイズはしおれていた。


「……クラストとやらは、まだ来てないらしいな」


リゼルはそんなレイズの様子に目もくれず、辺りを観察している。

周囲に人影はない。


「……魔物もいないのね」


助かるけど、とミーネは呟く。

まあまあな距離を歩いたが、今日は魔物と一度も出会っていない。

外を歩いていて、こうも平和なのは珍しい。


「待ちましょうか。レイズも疲れているようですし」

「そうだな。今日は時間もあるし」


レイラたちは思い思いの場所に腰かけ、この癒し空間に浸るのだった。


「…………」

「なぁ」


空をぼんやりと眺めていたバージルが、ぼつりと呟いた。

もう、三十分は経っただろう。

いつの間にか、レイズは寝息を立てていた。水辺で涼しく、木々の影もある。

仮眠するにはいい環境だが、一応外の世界だ。寝るのは危険すぎるのだが。


「……遅すぎないか?寝ちまったぞ」

「そうですね……」

「結果が出なかったから、とか?」


遅すぎるクラスト。疲れ果てて寝ているレイズ。

マリナは、考えたくない結論を導く。


「逃げたか……無駄足だったか」


リゼルは舌を打つ。

せっかくの休日。貴重な生活費稼ぎの時間を無駄にしてしまった。

こんなに待たされるなら、無理にでも魔物を探して狩るべきだった。

財布事情にシビアなリゼルは、苛立ちが隠せないでいる。


「昼までに来なかったら帰るぞ」

「はい……」


レイラも自分たちの経済状況を理解しているのか、粘ろうとはしなかった。


「……あと、一時間強か」


リゼルが時間を確認したその時だ。

周囲を揺るがすような、大きな咆哮が辺りに響いた。

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