―特訓の進捗状況―
クラストと会った日の夜、レイズはリゼルたちを集め、昼間のことを話そうとしていた。
その際、魔物退治をサボっていたことは何とか誤魔化し、少額ながら稼いだお金をリゼルに渡す。
「すまん。調子が悪くてな」
「ふん……まぁ良い」
渡してすぐ、クラストとの話題に入った。そうすれば、お金の話から話題をすり替える事ができる。
「今日の昼のことなんだけどさ……」
クラストという人物に会ったこと、彼はスレイを知っていたことを話す。
スレイは荷物をまとめており、勉強していたノートも『燃やす』といった形で処分していたこと。
「……なら、もう本ッ当にここにはいないってことになるわね……」
深刻そうなマリナの声。
アパートを引き払ってシャンバーレ内で拠点を変えただけ、とも考えていた時期もあったが、結果が出てしまった。
レイズは、その結果を受け入れている様子だった。
「あぁ、そうなる」
「いいんですか?もう……」
遠慮がちなレイラ。
心残りはあるが、彼がいないのだから、どうすることもできない。
「あぁ。ここにいないし、その話も二週間以上前だし。気にはなるけど、大事なのはこの先だ」
「……?」
スレイの安否、行方も心配だ。
だが、そこに拘っていても今は仕方ない。
レイズが伝えたいのは、その先の『フル・ドラゴン・ソウル』の話。
「皆は……最近どうだ?」
「は?」
バージルが腑抜けた声を出す。
「あぁ……すまねぇ」
レイズは頭をかいた。
確かに、これでは伝わらない。
「その、龍魂のこと、どうだ?」
「成果の話か?」
「まぁ、それでいい」
レイズのよく分からない質問に、仲間は考える。
何の意図があるのだろうか。
「私は、順調だと思いますけど……一つ一つレベルは上がっている気はしますが……」
「……僕もそう思う。少なくとも、確実に力はついてきている」
実際、レイラとリゼルの二人は実力を上げている。
上げているが、『龍魂の範疇』で上げているに過ぎない。階段を数段上がっただけ。
『枠』を超えた進化をしているわけではない。龍魂そのものの殻は破れていないのだ。
「俺は……どうだろうな?まぁ、ちょっとできることが増えた程度か」
「わたしは……バージルと同じかな……あの時の力を意図的に出すのは無理みたい」
レベルがやや上がっていると感じているバージルとマリナ。
スタート地点が低かったマリナも、かなり追いついてきた。
宿屋で成果を共有している際、龍力レベルも見ている。
ド素人のレイズの目から見ても、二人のレベルも確かに上がっている。が、それもレイラとリゼルと同様に、龍魂の範囲内なのだ。
それに、レイラとリゼルに比べれば、上り幅は小さい。
「あたしは、全然……力になれそうにないわ……まぁ、少しは力は出せる気はするけど、全然ね」
ミーネは苦労しているようだった。
もともと人見知りで、引っ込み思案だ。
コウほど厄介な講師はいないらしいが、それでも面倒な講師はいる。
龍魂のことで分からないことがあっても、積極的に聞きに行けない。
勇気を振り絞って聞きに行けたとしても、口下手で、何を聞きたいのかも言葉にできないレベルだ。
ただ、努力は人一倍している。
全員が寝静まった深夜でも、彼女の龍力を感じる時があるのだ。
「……俺もだ。上がったような、そうじゃないようなって感じだ」
「それで?お前は何が言いたいんだ?」
「『フル・ドラゴン・ソウル』って聞いたことあるか?」
「は?」
きょとんとする仲間たち。それだけで、聞いたことないな。と判断できた。
レイズは仲間と一人一人視線を交えた後、一呼吸おいて言う。
「……クラストは、それを知っていた。教えてくれるとも言ってくれた」
「え……?」
具体的な可能性の提示。
これを聞いたリゼルたちは、何を思うのか。