―元師範として―
「フル……ドラゴン・ソウル?」
「あぁ。そうだ」
フル・ドラゴン・ソウル。
聞いたことのない言葉だ。
だが、龍魂よりも強そうな感じではある。
「普通の龍魂よりも、桁違いなパワーが出せる」
「それって……!」
「あぁ。お前が見たのは、恐らく『フル』だ」
「フル……」
レイズは、グレゴリー戦やゴウザのことを思い出す。
彼らの龍力は、『龍魂』を鍛えました、というレベルをはるかに超えていた。
あれは才能なのか、と内心思っていたが、フル・ドラゴン・ソウル。そういう段階があるのか。
しかし、不可解なことがある。
「でも、道場では何も言ってなかった……」
そう、引っ掛かりはそこだ。
道場ではそのような言葉は飛び交わなかった。
通常のドラゴン・ソウルをベースに特訓をしていた。そして、座学も。
「……入門の道場なんだろ。それに、センセイも生徒は多い方が良い。そんな全部包み隠さず、なんてのは期待するな」
「マジすか」
道場運営も商売。そういうことか。
と言うか、それなら猶更コウや講師陣の『あの対応』はオカシイと思うのだが。
あたおか講師陣が教える。無意味道場。レイズたちのニーズから言えば、時間と金の無駄である。
(強さのヒント……意外な所で掴んじまったな)
フル・ドラゴン・ソウル。
それが彼らの強さの秘密なのはよく分かった。
だが、どうすればその状態になれるのかが分からない。道場でも、教えてくれる可能性は低い。
「え~……だったら、変えるしかないか……でも、金がな……」
レイズは悩む。
仲間たち含め、今いる道場では、これ以上の成果は得られなさそうだ。
それなら、道場のクラスを上げるしかない。が、クラスを上げるにしても、金がない。
道場代、宿代、食事代で既にカツカツなのだ。
「リゼルに相談か……?いやいや、とてもじゃねぇけど、上の道場代は払えねぇ……」
「…………」
クラストは悩むレイズを見ていた。
(おれなら、こいつを引き上げれる。が、それは正しいのか……?)
クラストは今、ただの半ニート生活を送っている。しかし、昔は凄腕の師範だった。
実績はあったが、育てた生徒の一人が犯罪に走ってしまった。
そこにクラストとの因果関係はないが、そこから彼は生徒をとらなくなった。
今は、シャンバーレの外れにある家で小さく暮らしている。
結婚もする気になれず、相手も長い年月いない。
(悪いやつには見えないが……)
レイズ、スレイ共に悪人には見えない。が、それは昔の生徒も同じだった。
人はいつ変わってしまうのか分からないのだ。
「クラストさん、ありがとうございました。一回相談してみます」
レイズは立ち上がる。彼が行ってしまう。
「ッ……」
レイズは立ち上がり、パンツに付いた砂を払う。そして、軽く頭を下げた。
彼が背を向けた瞬間、クラストは自然と声が出ていた。
「おれなら、お前を引き上げられる」