―新たな力の可能性―
「あいつは、お前に言ったあの言葉を後悔してた」
「…………」
「おれには兄弟がいない。だから、黙って去っていくってのが理解できんのだが……まぁ、あいつは黙って去ることを選んだ」
今の話を聞いて、レイズは尚更「もっと早く動いていれば」と後悔した。
タラレバに意味はないと思っていても、どうしても考えてしまう。
(けど、あの場で『それ』はねぇだろ……)
あの場での「羨ましい」発言はモラルを欠いた許しがたいものだが、仲間たちはそれに拘っていなかった。
龍の暴走はトラウマレベルだ。それなのに、羨ましいとは許せない。が、そんなつまらないことに拘り、たった一人の兄と連絡が取れなくなるのは、もっと嫌だ。
「……どっちに行ったか覚えてます?」
「お前……まさか!」
驚きを隠せないクラスト。
どうする気なのか、流石に分かる。
「探します」
「無茶だ!もう二週間以上前の話だ!方向はまぁ、覚えているが、ヴァイス平原だぞ?街道もない、道標もない、方向だけじゃ命とりだ!」
「……っ……」
スレイの移動速度は不明だが、どんなに遅くても、一週間あればヴァイス平原を抜けることが可能だ。
その先は、本気で不明。
それに、ヴァイス平原を本当に真っすぐ進んでいるかも分からないのだ。
クラストに正論を言われ、レイズは黙る。
「忘れろ、とは言わんが、止めてくれ。これ以上は、俺の目覚めが悪くなる」
「はい……」
「で、その弟君はなんでシャンバーレに?」
そうなるか。
クラストの興味は、自分がなぜここにいるかにシフトしていた。
「『あの日』の龍力者って話はしましたよね」
「あぁ」
「俺には仲間がいるんですが、まぁ、そいつに龍力を教わったんです。で、コントロールは順調なんですけど」
「ほうほう。それで?」
騎士団のことは言えない。
嘘を言うつもりはないが、騎士団のことは隠しながら話さなければならない。
頭をフル回転させ、言葉を探す。
「その仲間と一緒にいるとき、ヤバい相手に遭遇しちゃって……」
「ヤバい相手?」
「……俺らの龍が通用しなかったんです。俺から見れば、仲間の龍も凄いのに、通用しなかった」
「……なるほどな」
駆け出し龍力者がぶつかる壁の一つだ。
単に未熟なのか、龍の使い方が下手なのか。
龍魂を得ることができても、極めようとすれば、先は長い。終わりがないほどに。
「逃げてしまえばいい話でもなくて……因縁の相手みたいになってて……だから、戦闘は避けられなくて……」
ヤバい相手なら逃げるのも戦略の一つ。だが、レイズたちは逃げることは許されない。
レイやフリア達を倒さないといけないのだから。
「それで、ここに何かヒントがないのか探しに来たわけか」
「……そうです」
「その行動力は認めるが……」
顎に手の甲を当て、考えるクラスト。
こいつは、どのタイプなのだろうか。
単に未熟?
龍の使い方が下手?
龍力の流れが読めていない?
「お前、ちょっと龍力上げてみてくれないか?」
「え……?」
「おれもここの人間だ。多少アドバイスできるかもな」
「……分かりました」
レイズは立ち上がり、龍力を込めた。
湧き上がる力を爆発させることなく、流れるように、滑らかに身体に充満させる。
荒ぶる心を落ち着けながらも、内に秘める力を上げていく。
(こいつは……想像以上だ)
クラストは正直に驚いていた。
レイズの基本は良くできている。下手に龍力を上げるのではなく、血液が流れるように、自然に龍を纏わせている。
「……で、センセイは何て?」
「え?」
「師範だよ。通ってるんだろ?」
「……通ってますけど、ぶっちゃけ意味ないなって」
コウやその他講師陣の信頼がないことをぼかし、ただ漠然と通っているだけだという空気を出しながら言った。
クラストにコウへの不満を漏らしても、共感してくれるかは別問題であるし、この場で愚痴っても意味はないのだ。
「むしろ、基本を教えてくれたのは仲間の方です。ただ、力の上限(?)を上げるのは難しいみたいで」
「……オーケー、分かった」
今ので、大体レイズの今の実力が分かった。
そして、彼が通っている道場のレベルも。
「レイズ。今のお前に必要なものを教えてやる」
「え!?マジすか?あ……いや、本当ですか?」
レイズは一旦龍力を鎮める。
(クールダウンも完璧じゃねぇか)
自然に。本当に自然に、レイズは龍力を落とした。
想像以上の出来栄えに、クラストは興奮する。
「フル・ドラゴン・ソウルだ」