表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍魂  作者: 熟田津ケィ
-全ての始まり-
15/689

中型との戦闘

宿を取り、龍力の特訓のために町の外に出ようと歩いているレイズとバージル。

宿探しで街中を移動したため、入った時とは別の出入口を目指している。


さて、そろそろ外に出るな、と言うタイミング。

レイズが何かに先に気付き、バージルに声をかける。


「あれ?閉まってね?」

「!確かに……なんでだ?」


ミナーリンに入った時とは違い、門が閉められている。

通る時だけ開けてくれるのだ、と呑気に構えていたが、そんなことはなく。


「待て。二人共」

「!」


出入りの門付近にいた、騎士団員の若い男に止められてしまったレイズとバージル。

お堅そうな短髪茶髪の男。同じ男から見ても、モテそうな顔立ちだ。


「一時的に封鎖中だ」

「え?なんで」

「魔物の目撃情報があったんだ。雑魚なら自警団に任せるが、厄介な魔物らしい。安全が確認できるまで、ここは封鎖する」


だってさ、とレイズはバージルに目を向ける。


「どうするんだ?反対側から出るか?」


入った時は平気だった。なら、大丈夫かと思うのは自然。ただ、また街中を歩き倒すハメになるが。


「そっちは封鎖してるのか?」

「……封鎖はしていないが、今この町から出ないことをおススメする」

「!」


出ることは可能の様子。ただ、またあの道のりを歩くのか。それだけで、疲労困憊となりそうだ。

しかし、練習しない訳にもいかないのが現状。仕方がない。運が悪かったと思うしかないのだろう。

だが、騎士団がここまでする相手。『あの日』以降、魔物の生態系にも変化が起こっていると聞いたことがあるが、ここまでとは。


(そこまでの相手……近づかない方が吉だな)


いくら騎士団がおり、自身も龍力者とは言え、万能無敵のチカラではない。

危ない橋を渡る必要はない。


「分かった。レイズ、行くぞ」


引き返そうとしたその時、遠くで音がした。工事などの音ではない。戦いの音だ。


「「「!」」」


団員は門を飛び越えた。レイズ、バージルは飛び越えることはできなかったが、よじ登った先で音の正体を知ろうと試みる。


少し遠くの草原から煙が上がっている。その影響か、鳥たちが一斉に羽ばたいているのが分かる。

二人の気配を感じてか、団員は叫ぶ。


「……!!君たち、早く逃げなさい!!」

「あ……」


レイズたちは、返事ができない。呆然と音のした方向を向いている。


なぜなら「それ」の足音が徐々に聞こえ始め、「それ」が猛スピードでこっちに来ていたからだ。

距離があったはずなのに、もうそこまで走ってきている。


隊員も「それ」の姿を確認するや否や、剣を抜く。

民間人にばかり構っていられず、団員は叫んだ。これが、最後の警告。


「逃げろ!!」


猛スピードで現れた「それ」は普通の5倍はあろう猪だった。

『大型』とまではいかないが、人間サイズから比較すれば、十分デカい。魔物的には『中型』か。


大きな牙、力強い脚、剛毛、獣の臭い。

グリージの山中で見た魔物とは、桁違いだ。

餌がなくて、山から下りてきたのだろうか?


「やべぇ!!逃げるぞ!!レイズ!!」

「逃げる……?」


バージルはしがみついていた手を離し、着地。レイズを引っ張ろうとする。

しかし、彼は動かない。じっとその猪を見つめている。


「…………」


所々に傷が見え、血が噴き出ている。あの戦いの傷だろうか。

かなりのダメージを受けていそうだが、動きがのろくなるなどの変化はなさそうだ。

そして、立ち向かおうとする団員と見比べる。


戦闘はド素人だが、戦力差くらいは何となく分かる。


「……一人じゃ無理だ!!」


レイズは直感で思った。


いくら敵が手負いで、こっちが龍力が使えるといっても、敵が大きすぎる。

門を何とかよじ登り、そのまま飛び越えるレイズ。


「は!?」


バージルの驚く声を背中に浴び、走り出した。


龍力の練習こそしてきたが、いきなり中型クラスの魔物の相手か。

しかし、あの状況で騎士団員一人に任せるのは、無理。


(頼むぞ!!炎龍ッ!!)


自分の中に静かに燃える炎を感じ、引き出していく。

身体の周囲に炎が舞い、全身を包むようなオーラ状の靄を形成する。


力の気配を察知したのか、隊員が振り返る。


「君!?」


宙忠告を無視した炎使いの少年は、自分のすぐ後ろまで駆けていた。


「俺も戦います!!一人じゃ無理だ!!」

「構うな……逃げ……!!」


団員は何か言いたそうだったが、黙る。言い争っている時間が惜しい。

何も言わずに猪に向かって走り出す。レイズもその後を追う。


門の内側。バージルは一人、額を門に擦り付けていた。


「あのバカは……」


レイズが出て行ってしまったこの状況で、退くという選択肢はない。

覚悟を決め、助走距離を確保。そのまま全力疾走し、門を飛び越える。流石に龍力を使ったが、無事に越えられた。そして、武器を手に取る。


(あのクラスに、杖……!!)


心許ない武器種だ。こんなことなら、剣を買っておくべきだった。

後悔も程々に、全速力で走り、レイズに追いつく。


「脚を狙え!!町に近づかせるな!!」

「バージル!分かった!!」


猪の突撃を止められる者は、この中にいない。脚を狙い、筋を切る作戦だ。

二人がかりで前脚を狙い、切りかかる。


バージルは一旦振り返って風の壁を作り、町の出入り口に貼る。

閉められた門プラスの風壁。まぁ、無いよりはマシレベル。


「……あいつにこれは効かねぇかな」


自嘲した笑みを浮かべながらも、できることをするだけだ。

ターゲットを再び捉え、走る。


「はぁっ!」


騎士団員に前脚を切られ、猪の体勢が崩れる。だが、止めるまではいかなかった。

スピードが落ちたその瞬間、レイズは猪と目が合った。


ぞわ、と背筋が凍る。

しかし、負けられない。


「うぁぁぁぁああああッ!!」


恐怖を振り払うかのように大声を出し、自分を奮い立たせる。

構えも動きも滅茶苦茶だが、猪に剣を突き刺した。


「!!」


猪は悲鳴を上げ、暴れる。

一時的に毛皮が炎上するが、すぐに鎮火してしまう。

シンプルに練度が足りない。


(浅いし弱い!いきなり『このクラス』の敵は無茶だ!!)


バージルは杖に龍力を充填する。

傷口を狙い、風龍の紋章を描く。

そして。


「ウインドカッター!!」

「!!」


傷口から多量の血が舞う。しかし、動きは止まらない。

驚いているレイズだが、想定済み。


「まだだ!風槌!!」


雑に杖の先端に龍力を集め、殴る。

一人なら逃げているクラスの相手だ。ダメージは期待できない。

その間もレイズは必死になって剣を振っている。


「だぁッ!」


炎が舞うには舞うが、一瞬で消えていく。

技として成立していないため、殆どダメージはないだろう。

レイズ自身、それを分かっている。


「くっそ!」


カバーするように、団員が入る。


「どうだッ!」


暴れながらも、器用に攻撃を繰り出す猪。

スキを見て剣や杖を入れる三人。


「く……!」


ミナーリン付近の草むらが、猪の血に染まるころだ。

慣れない龍力・慣れない戦闘で、集中力が最初に切れたレイズ。

一瞬意識が乱れたその瞬間、猪の体当たりを食らってしまう。


「いって!」

「レイズ!」


レイズは尻餅をつき、剣を手放してしまう。

顔を上げた先に、猪の顔。


「あ……」


こちらを見下すように視線を下げている猪。太陽光に反射した牙が、物凄く大きく見えた。

その瞬間、全身が硬直してしまう。


「ッ……!!」


身体中の毛が逆立ち、一瞬で全身に鳥肌が立つ。

口の中の水分が一気になくなった気がする。

何とかして立とうとするが、脚が震え、動かなくなってしまう。


「レイズ!!」

「君!!」


バージルと団員の叫び声が聞こえたような、聞こえなかったような。

猪の唸り声にかき消されてしまった。


硬く、レイズよりも大きな牙が振り上げられ、容赦なく振り下ろされる。

バージルと隊員は、同時に叫ぶ。


「「飛べ!!」」

「……!!」


死への恐怖。無謀な戦いに挑んだ愚かな自分。

つ、とレイズの頬を涙が伝う。


その瞬間、牙が大地に叩き付けられ、砂煙を起こした。


「!!」


轟音と地響きに辺りは包まれる。

立てないほどの地響きではなかったが、バージルは膝をついた。


「レイ……ズ……」


自分の夢のために、彼を連れ出した。

龍力を教えると言って、親も説明した。

それなのに、守れなかった。


戦場には、血の臭いと、舞う砂煙。二人の呼吸音が、支配していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ