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龍魂  作者: 熟田津ケィ
ー無知ー
149/689

―後悔―

ゆっくりとではあるが、スレイは話し始めた。

頭の中で考えがまとまっていないため、言葉はめちゃくちゃだったが、クラストは黙って聞いていた。


(努力……結果……劣等……か……)


まとめると、こうだ。



王都に出稼ぎに行った父親からの手紙に影響され、龍魂-ドラゴン・ソウル-に強い興味関心を持つようになった。

龍魂を得るためには、試験の合格が必須。そのため、龍魂の試験を受けることを決意し、勉強を始めた。

最初は実家で。しかし、弟が自分より出来が良い兆しが見えると同時期に、実家を出た。

父が住む王都に拠点を移し、働きながら勉強した。


が、待っていたのは不合格通知。

それが、何年も。


何度も心が折れそうになった。が、憧れのために諦めることはしなかった。


父の住む王都ということもあり、心のどこかに甘えがあると思った。そう考え、稼いだ金で護衛を雇い、シャンバーレに拠点を移した。そして、徹底的に自分を追い込んだ。

そんな時、『あの日』の惨劇が起こった。


周囲では、自らの意思に反した龍力の暴走。

町が荒れ、国への信頼も地に落ちた。


良くも悪くも、シャンバーレは龍力者の町だ。つまり、非龍力者の数は限りなく少ない。

だから、スレイはその爪痕やトラウマに詳しくない。が、一応の情報は入ってくる。

ただ、彼の情報入力の優先度は龍力の知識>ニュースだ。詳しく知ろうとも思わなかった。


だから、試験抜きで龍魂を得た彼らを疎むこともあったと言う。

『エラー龍力者』と呼ばれてしまっている彼らには、背景に「トラウマ級の辛い記憶」が刻まれていると言うのに、だ。


「頭では分かっていたんですが……心が追いつかなかったんです」


実際には、エラー龍力者のトラウマなど、スレイには理解できない。

理解しようともしなかった。ひたすらの勉強+体力づくりに明け暮れていたからだ。

が、彼本人、自覚していない。頭で分かっていたのではなく、分かっていた「つもり」だ。


その理解に乏しいまま、彼の人生は狂っていく。


「クソ……」


指を絡ませている手を、更に強く組むスレイ。

空気が読めない不用意な発言を連発するほど、彼は馬鹿ではない。が、どうしたって限界はある。

彼の限界は、憧れの根本であるードラゴン・ソウルーだ。


「はぁ……そして……」


その矢先、数年ぶりに弟に再会した。

その弟は、子供のころは競争事で勝てていたが、成長するにつれ、勝てなくなっていたこと。

勝手に感じていた、弟に対する引け目。自分とは真逆の性格で、優秀な弟。


「……何の悪戯でしょうね。あんな所で偶然会うなんて……」

「偶然ってのは、意外と起こるモンだ」


世界は広い。それなのに、起こって欲しくない偶然は起こる。

何かに引っ張られているように、予め決められていたかのように。


「……そうですね。ただ、単純に再会した『だけ』ならまだ良かった」

「……龍魂か」

「…………」


スレイは黙って頷いた。

自分が何年も血反吐を吐くような努力をしても得ることが出来なかった龍魂。

それなのに、弟は龍魂を得ており、魅力的な仲間と共に行動していたこと。


「自分は……そこで最低な一言を発してしまいました」

「……なんて言ったんだ?」



羨ましい。



と。

口からその言葉が出た途端、その場の空気が変わったと。

弟に胸倉を掴まれ、殴られかけたと。


何年も何年も努力して得られなかった龍を、弟はすんなり手にしていた。

もちろん、望んでそうなったのではないことは理解している。背景には記憶に刻まれたトラウマもあるだろう。

先述の通り、理解している「つもり」だった故の発現。割り切れなかったのだ。


「……クズ野郎ですよ。自分は」

「…………」


心の中で深いため息をつくクラスト。

『あの日』が絡むと、ロクなことがない。大きな事故・事件であったため、当たり前のことなのだが、こういう人間を見る度に痛感する。

かと言って、できることはないのだが。


「……それで、逃げるのか。あれだけ努力したのに」


一朝一夕であのノートが出来上がるとは思えない。

それだけで、彼の努力が理解できる。


「えぇ。さすがに疲れました。向いてなかったんです」


努力だけでどうにかできない部分もある。そのため、無理に引き留めるのが正解という訳ではない。

けれど、スレイは、こいつは、家族との縁まで断ち切ろうとしている。


「……弟からも、逃げるのか?」

「それは……あなたには関係ありませんよね」


少しだけ躊躇い、苦しそうな顔を見せるスレイ。

精一杯の強い言葉だ。


「まぁ、そうだな」

「……自分は、これで」


クラストの問いには返事をせず、スレイは立ち上がった。


「あぁ。達者でな」

「……クラストさんも」


スレイはリュックを背負い、カバンを手に持つと、振り返ることなくその水辺から離れていった。




「そう、だったんですね……」


覚えている限り、と言っていたが、割と詳しく覚えてくれているな、と心の中で突っ込むレイズ。が、感謝しかない。


「すまない。おれでは止められなかった。お前に会うと分かっていれば……」


全てを投げ出して消えてしまったが、スレイは良いヤツだ。

職業柄、多くの人間を見てきたため、分かる。あの時、もう少し自分が我儘でいれば、シャンバーレに留めることができたかもしれなかった。


「……『たられば』の話をしても無意味ですよ。自分も、少し前まで考えてましたけど。過去は変わらない。口から出た言葉も……取り消すことはできても、消えることはないですから」


レイズは静かに言う。

自分も先日まで、「あぁすれば良かったのか?」とか「もう少し早く動いていれば」とか考えてしまう。


「……一つ言うなら、『無意味』ではない。経験から、次に活かすんだ。ただ、この件に関しては、無力だが……」


どんな経験も、後悔も反省も、無意味ではない。

それを活かし、どう動くかが大切なのだ。

クラストは救えなかったスレイと、力なく頭を垂れているレイズを無意識に重ね、解くように訴えるのだった。

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