―意味もなく過ぎる日々―
シャンバーレに滞在して、一ヶ月は経っただろうか。
もうあの道場や講師陣に信頼の文字はない。それでも、我慢しながら通うことはしていた。
だが、そんな精神状態で通ったところで、得られるものなどない。
レイズは相変わらずの日々を送っていた。
ただ、龍力に関しては、扱いに慣れてきたように思う。
「なぁ。お前、少し良くなってないか?」
きっかけは、同じ生徒からの言葉だ。
「え?そうか?」
「あぁ。前よりも力がある気がする」
実際、道場内ランキングも最下位ではなくなっていた。しかし、それだけだ。
少し認められ、気分を良くしていたが、それではダメだ。
グレゴリーが発した力までは到底及ばない。
道場をランクアップさせようかとも考えたが、実行はしなかった。
ひっそりと見学会に行ってみた結果だ。道場により色はあるものの、基本ベースは同じに感じていた。
コウのようなパワハラ無能講師と接点がなくなるのは大きいが、行った先で似たような人種がいないとも限らない。
(あいつがレアケースだと思うけど……まぁ、カリキュラムは残っるしな……)
あんな人種がホイホイいては、不幸な生徒が増えるだけである。
だから、そう多くないと思いたい気持ちは大きい。
それに、授業数は一応残っている。期待はしていないが、行くだけ行くつもりではいた。
もっと強くなれれば、町の中央にある最高レベルの道場に行くのだが、自分はそんなレベルに達していない。
金を持っていると言っても、道場にも求めるランクがある。門前払いを食らうだけだ。
そんなこんなで日常を過ごしていたら、休日がやって来た。
(今日は暇だな。魔物と戦う気分でもないし……)
普段であれば、倒せそうな魔物を倒して特訓及び金策に走っている。
しかし、レイズは魔物退治をサボり、シャンバーレの近くの水場で寝ころんでいた。
普段出入りしない門から出たため、この辺りに来るのは初めてだ。
(な~んか、違うよな……)
木陰で涼みながら、流れる雲を眺めている。
そうしながらも、今までの日々を振り返っているレイズ。
どうにも、しっくりこない。
スレイのことは物凄く気がかりだ。が、それだけではない。修行メニューもなんか想像してたのとだいぶ異なっていた。
もっと身体を動かして龍力を使っていくのかと思っていたが、意外にも座学や座禅が多い。
龍の紋章の描き方、力の流れのイメージなどなど、具体的なものもあれば、雰囲気をつかむような「ふわっとした」メニューもあった。
(知識、か……)
修行をしてみて初めて、なぜスレイが分厚い本を読み漁っていたのか分かった気がした。
知識を増やすことも龍魂の修行の一つだ。
実際の戦闘でその知識を引っ張り出すことがあるかは別にして、その知識が龍魂の基本の一つであることは変わりない。
それを含めた上でも、レイズは腑に落ちていなかった。
(俺が求めているのは……力だ)
グレゴリーと戦える力。
レイズは、それが欲しい。自分たちはそれが欲しかったから、ここまで来たはずなのだ。
それなのに、今の道場ではそれが全く期待できない。
パワハラ無能講師、知識がない講師、フォローがズレている講師……あそこで学ぶ意味があるのか疑問に思うレベルだ。
とは言え、他の仲間も大きく変わらない。講師陣の当たり外れがある程度で、力の底上げが出来ているとは思えない。
これで良いのか。リゼルやレイラが何も言わないということは、従うべきなのだろうか。
自分には、分からない。腹を割って相談できれば良いのだが、スレイの件で出遅れた手前、言い出しにくい。
(……帰るか)
起き上がったとき、水場に人影を見つけた。
「ん?」
「あ……」
その人間と目が合う。
30代後半くらいの、髭を処理していない男。道着を着ていた。
髪は茶髪で、バックにしている。流れからはぐれた一部分が両サイドから垂れている。
「「…………」」
目は合ったが、挨拶するような関係でもない。
関わる必要はないと踏み、レイズはそのまま去ろうと立ち上がる。
この時レイズは、思ってもみない言葉を掛けられるとは、想像すらしていなかった。