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龍魂  作者: 熟田津ケィ
ー無知ー
144/689

―レイズの気持ち―

月が空に浮かんでいる。

時間的に道場の授業は終わった時間で、町には夕食を楽しむ人々で賑わっている。


このまま戻るべきなのだろうが。レイズはどうしても帰る気になれず、適当な飯屋に入り、一人で食事を済ませ、ダラダラと過ごしていた。

夜も遅くなり、人がさすがに疎らになってきたころ、レイズはようやく足を宿屋に向けていた。


「……遅くなっちまったな」


宿屋に戻れた時間は夜遅かったが、仲間たちはホールに集まったままだった。

マリナから話を聞いたのだろう。夜遅いにも関わらず、彼らは一人も眠らずに待っていてくれた。

全くこちらに興味がなさそうなリゼルでさえも。


「起きてたのか……」

「えぇ、それで……どうでした……?」


恐る恐る、レイラが状況を確認しにきた。

まぁ、結果は効かなくとも、その顔を見れば何となく分かってしまうが。


追加で、レイズは首を横に振る。


「もう、いなかった」

「……え?『いなかった?』」


『いなかった』とはどういう意味だろか。


「会えなかっただけじゃないのか?いなかったって……」

「あいつは……スレイは、もうシャンバーレにいない」

「おい……マジか」


バージルたちは絶句した。

あの夜のことが、よっぽどショックだったのか。

心中は、ある程度察していたつもりった。が、だとしても、家まで引き払うとは。


「どこ行ったか、とかは?」

「いや、分からない。隣の人は、少なくとも、三日は見てないらしい」

「三日……」


三日あれば、遠くまで行けてしまう。

三日でヴァイス平原を抜けるのは難しいが、そこさえ抜けてしまえば、馬車などの移動手段が豊富だ。さらに移動速度は上がる。


「家に帰ったかも、って隣の人は言ってたけど」

「そう、だといいですね……」


皆、あの夜のスレイを思い出していた。彼の精神状態は普通じゃない。家に戻っていくような感じでもなかった。

無事でいてくれれば良いのだが。


「…………」


沈黙が流れる。


「で、レイズ。お前はどうする気だ?」

「え?」

「兄を追うのか、特訓するのか、もう辞めるのか」


リゼルは決定を急いだ。


「……レイズ。お前は騎士団を受け、入団した。これは非公式ではあるが、騎士団の任務だ。だから、まともに仕事する気がないお前を置いておくわけにはいかない」


道場には通っているものの、全くに身に入っていない状態だった。


(ち……)


なるほど。リゼルが起きていたのは、その確認のためか。

心の中で舌を打つレイズ。


「ダラダラ続けられても、邪魔なだけだ」

「リゼル!?何を!?」


レイラは驚くが、彼はそれを手で制した。


「……今までは我慢してきた。お前の兄はもうここにはいない。引っ掛かりはまだなくなっていないだろうが……解決する術ももうないんだ」

「そう……だな……」


スレイのことが、ずっと心に引っ掛かっている。

こんなことなら、翌日にでも話をしに行くべきだった。もう、スレイはここにいない。

後悔が強く残ったレイズ。決断を迫られても、今は何も考えることができない。


「悪い……明日にしてくれないか……」

「おい、話はまだ終わってないぞ」


レイズは誰とも目を合わせず、部屋に入っていく。

リゼルは止めようと席を立つが、レイラに手首を掴まれてしまう。


「リゼル……もう、良いんです……」

「ッ……」


レイラの悲しそうな顔に、リゼルは何も言えない。


「はぁ……僕も休ませてもらう」


レイラの手をゆっくりと剥がし、リゼルも部屋に入っていった。

ホールに残された四人。


「ごめん……」


マリナは、力なく謝った。


「わたしが余計なこと言わなかったら……」

「お前のせいじゃない。いつかぶつかる壁だったんだ」

「かも、知れないけど……」


それでも、最後に引き金を引いたのは自分だ。その罪悪感が心にべっとりと張り付いている。


「最後はアイツが決める。俺らは、ただ祈るだけだ」

「そう、ですね……」


レイラは、男性陣の部屋を見る。

その直後、一度だけ壁を叩いたような大きな音がした。

レイズか、リゼルか。


「!」


立ち上がりかけたレイラだが、バージルに止められる。

これ以上二人を刺激するのは良くない。


「……一人にさせてやれ」

「し、しかし……」

「…………」


バージルは願うように首を振る。


「はい……」


しゅん、と頭を垂れるレイラ。

重い空気が流れる。


「今日は休もう。疲れてるし、ネガティブになってる」

「うん……」


バージルたちは、次々と席を立つ。

レイズの正式復帰を願い、それぞれの寝床に着くのだった。

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