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龍魂  作者: 熟田津ケィ
ー無知ー
143/689

ー再びのアパートー

レイズはマリナに追い出される形で、外へ飛び出していた。


「クソ……今更何話せってんだ……」


悪態をつきながらも、小走りでスレイの家に向かっていた。


思えば、道場と宿屋の往復以外で外に出るのはあの夜以来だ。

食事も仲間たちのを分けてもらっていた。


最初は「自分で買えるだろ。お前が食いたいものも分からないし」的な反応だったが、どうしてもまともに考えることができず、本気で頼み込んだ。

最終的には、バージルやレイラが承諾し、用意してもらっている。


人混みを分けて進み、息を整える。

道場で休憩時間をずらしている様子で、いつでも人通りがある。

犯罪の抑止力としては良いことだが、レイズには余計な疲労が増す要因だった。


小走りだったそれも、いつの間にか歩きに変わっている。


(……着いちまった)


ぼんやりしながら歩いていると、いつの間にかスレイのアパートにたどり着いていた。

一度だけため息をつき、入り口をくぐるレイズ。

共有部分には、宅配ピザや弁当などの広告が数枚落ちている。武道の町でも、常に整っているわけではないらしい。

普段なら気にしないタイプだが、こう気持ちが沈んでいると目に入ってしまう。


(さて、行くか……)


気が重い。

階段を上る足が、異常に重い気がする。


「はぁ……」


本当に気が重い。目的の階まで辿り着き、老化を歩く。

スレイの部屋に着いた。着いてしまった。

ドアの前に立つ。今家にいるのだろうか。


「ふぅ……」


拳を握り、弱める。リラックスしろ。俺。

勇気を出して、呼び鈴を鳴らす。


「…………」


反応がない。レイズはそれに少しホッとしながらも、もう一度鳴らす。


「…………」


はやり反応がない。それに、人の気配を感じない。


「いない……か」


このまま帰っても、マリナは納得しないだろう。

仕方なく、レイズはスレイの帰宅を待つことにした。


日が沈み、廊下の電灯が灯る。

レイズはかなりの時間を持て余している。ただ、色々と考え事をしていたため、意外と暇ではなかったように思う。


「……腹、減ったな」


スレイは帰ってこない。長時間労働的な何かをしているのだろうか。

あと少しだけ待って、それでも戻らなかったら日を改めよう。そう思っていたころだ。

道場での特訓が終わったのだろう。この階の住人が戻ってきた。


「あれ?あんた、この部屋の人に用かい?」

「え?はい」


特に話しかけてもいないのに、30代くらいの男性が声をかけてきた。


「この部屋の人ならもういないよ?」

「え!?」


驚いて男性の顔を見るレイズ。

トレーニング後でスッキリしているのか、自分とは違い、清々しい顔をしている。


「あんた、よく似てるな」

「……住んでいたのは、自分の兄です」

「おぉ、そうかそうか!道理で!」


隣同士で交流があったのだろうか。

スレイの顔をよく覚えている様子だった。


「その、あいつはいつからいませんか?」

「う~ん……少なくとも三日は見てないな」

「三日……」


少なくとも、という感じからして、もっと前からいなかった可能性もある。


「勉強熱心だったね。でも、結果が出なくて悩んでいたようだよ」

「そう……ですか」

「ボクも応援したかったんだけど……自分のことが精一杯だったし……」


その男は、悪びれながらもそう言った。

レイズはそれにどう反応していいか分からない。

身内ですら呆れてしまったのだ。怒るのも違うし、愛想笑いで流すのも違う。

ただ、無表情で「そんなことないです」と答えるしかできなかった。


「ここにいないとなると……家に帰ったのかも知れないね」

「そう、ですね」


レイズとその男性は、それで別れた。

一人外に出た後、レイズはスレイの部屋だった所を見上げる。


(竿……カーテンもなくなってる……)


物干し竿やカーテンがなくなっていた。あの夜は、確実にそれらがあったはずなのに。

スレイは完全に部屋を引き払ってしまったようだった。

今、どこで何をしているのだろうか。


十中八九、もうこの町にはいない。しかし、周囲には魔物がうようよいる。

ヴァイス平原を抜けてシャンバーレに入れたのだから、通常時であれば何とかすると思う。が、彼の今の精神状態は普通じゃない。

魔物に襲われなければいいのだが。


(スレイ……)


襲ってくる喪失感。

しかし、もう遅い。


この町に、彼は……兄はいないのだから。

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