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龍魂  作者: 熟田津ケィ
ー無知ー
141/689

ー葛藤ー

部屋に残された三人。


最初感じていたレイズの怒りは、やがて失望に変わっていた。

子供のころ憧れていた兄は、ただ不貞腐れているだけの人間に見える。ダメ人間にしか見えない。


「レイズ、俺たちも……」

「クソが」


帰ろうと急かすバージル。

でも、やっぱり一発殴りたい。


「何とか言えよ!?」

「レイズ、止せ……」


龍魂の資格を得るため、勉強や鍛錬に勤しんだが、結果が現れず、心が折れた人間をバージルは見たことがある。

それに、スレイはレイズのエピソードの『龍魂を得た』や『仲間がいる』などのプラス部分だけをピックアップし、勝手に美化したのだろう。

そこだけ印象に残ってしまえば、羨む気持ちも湧いてくるのかもしれない。


「…………」

「だんまりかよ……!?」

「もういいだろ……」


スレイに反応はない。

もうこいつに期待はしていない。だから、どうでもいいはずなのだ。

しかし、その態度はどうも気に食わない。


「ほら、行くぞ……」

「クソ……クソ……!」


ただ一人の兄であるスレイ。

憧れていた兄の残像と、今の兄の現状。


絶望しつつも、関わりたくなくとも、たった一人の兄だ。

どうにもならない感情が、レイズの中に渦巻く。


「~~もういい……」


バージルに引っ張られ、部屋を出ていくレイズ。

最悪の夕食になってしまった。



部屋に一人残されたスレイ。

いつもの部屋に、一人の自分。普段通りの風景だ。違うのは、精神状態。

この、心に空いた穴は何だ。この虚無感は、いったい何だ。


レイズたちが帰った後、スレイはしばらく動けなかった。


「…………」


何も考えられなかった。

皿の上には、食べきれなかった冷めた惣菜が並んでいる。

女性陣が帰る際に、割りばしなどは一つに集めて捨ててくれていた。

そのため、片付けという片付けはない。明日食べればいいだけの話。


視線が冷めた総菜から、龍魂の本へと移る。


「…………」


自分は、なぜこうなってしまったのだろう。

どこからおかしくなったのだろう。


龍魂が欲しかった。

家を捨て、龍魂のために勉強を重ねた。

それなのに、試験では毎回落とされた。


試験が受かったと思えば、実技でボロボロだった。

器用な方ではなかった。差が小さい子供のころなら、気にならなかっただろう。しかし、この歳で思い知らされた。

それでも、諦めない。諦めたくなかった。幸いにも、再挑戦は認められている。ただ、筆記試験の免除はない。


金を得るために働いたし、並行して勉学を進めていた。

必死に勉強したし、必死に龍魂の本を読み漁った。


でも、ダメだった。

毎回手元に届くのは、『不合格』と記された通知のみ。


シャンバーレに場所を移し、肉体面、精神面ともに鍛えたつもりだった。

が、それでもダメだった。

目の前に上手くいっている者が現れただけで、こんなにも心が揺らぐなんて。

しかも、それが身内であり、弟であると。


(おれ……は……)


自分は、もうすぐ二十一歳になる。

自分の中で、二十歳くらいまでをメドにし、家を出た。

それがもう気付けば二十歳を超え、もう一つ歳を取ろうとしている。


今年ダメなら、もうダメだ。

そう思っていた矢先だ。レイズが現れたのは。


スレイは、何もかもがどうでも良くなっていた。

否、努力は続けたい気持ちがある一方で、諦めたい気持ちも大きくなっていた。


が、帰る場所も、行く当てもない。グリージを捨てたのは自分自身だ。

その事実が、スレイをさらに苦しめる。


決めた道。選んだ道なのに。

スレイは、今年の試験を受けないつもりになっていた。


部屋の隅にあるタワーのように積み重なっている教本。

借り物は返して、後は全て燃やしてしまおうか。この部屋も、もう必要なくなるだろう。


自分には、生きる価値がない。


「ふぅ……」


暗い部屋に、スレイのため息だけが響いた。

自分をとことん嫌いになった、救いの手が必要な男のため息。

しかし、ここで救いの手が差し伸べられるほど、現実は甘くない。


スレイは重い腰を上げ、テキストに手を伸ばす。

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