表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍魂  作者: 熟田津ケィ
ー無知ー
140/689

ー失望ー

夕食も終わり、レイズは今の状況を具体的に話していた。


龍魂のこと。暴走のこと。

騎士団のこと。冒険のことなど。

話したいことが多すぎて、時間がいくらあっても足りない。


そう思っていた時だ。スレイが有り得ない一言を発した。


「……羨ましいよ」

「!」


レイズだけではない。バージルたちにも緊張が走る。

いや、羨ましいという言葉は分からなくもないが、今ではない気がする。


「なに……が……?」

「お前は、龍魂を得たんだな」


それだけで、スレイは無龍力者であることが分かった。

数ある本も、勉強の軌跡も、龍力を得るための勉強だ。

スレイの龍魂への興味関心の深さ。その片鱗が見えた気がした。


「……」

「っ……!」


マリナ、ミーネは下を向く。レイラも目を閉じ、唇を噛んだ。


(それを……言うのですか……?)


『あの日』彼がどこで何をしていたのかは分からない。が、エラー龍力者と言われている人たちは、欲しくて龍魂を得たわけではない。

それに、彼らは暴走した際、心や体に深い傷を負っている。

大切な人を傷つけたり、関係性が絶たれたり、居場所を失ったり。苦しみは三者三様だ。


「本気で言ってんのか!?」


レイズはスレイの胸倉を掴んだ。

その勢いで、センター分けの彼の髪が乱れ、目が隠れる。


「……あぁ」

「ざっけんな!」

「……でも、お前は『救われた』んだろ」


前髪の合間から見えるスレイの目。

彼の目は、本当に無機質のようだった。


「ッ!!」


クソ野郎。殴ってやろうか。

レイズは拳を構えるが、バージルが腕を掴んで止めた。


「レイズ!!」

「離せ!!こいつは何も分かってない!!」

「……止めとけ」

「ち……!!」


まっすぐバージルに見られ、レイズは怒りの矛先を失う。

スレイを離し、どさ、と乱暴に床に座る。


「……んでだよ」

「殴っても、あいつらの気が晴れるわけじゃない……」


レイズは他の仲間を見る。


「「…………」」


マリナ、ミーネは下を向いたままだ。レイラも目を閉じたままで、心の底はよく分からない。

一番動きそうなリゼルは、ただ黙ってコーヒーを飲んでいる。矛先がレイラでないため、興味なしなのだろうか。


「リゼルは何とも思わないのかよ……」

「……思わない訳ないだろう。が、現実は違う」

「あん?」

「被害は絶大な暴走状態を知っても、羨ましい、という声は……少ないが、聞いたことはある」


そこで、レイラも小さく頷く。


「は……?」


意味が分からない。

こっちは傷付けたくない人を傷つけ、精神に深いダメージを負った。全身から炎が舞い上がり、全てを焼く光景は脳裏に刻まれている。今でも夢に見るくらいだ。

それなのに、羨ましいとは、本当に意味が分からない。


「それでも、龍魂に憧れる奴は、憧れる」

「…………」


スレイの部屋にある机には、分厚い本が何冊も積み重なっている。

すべて龍魂の本だ。故郷を発ってから、今日まで、ずっと勉強していたのだろう。


「血の滲む努力をしても報われないのが龍魂の試験だ。逆に、運で受かる場合もある……適正の関係でな」

「で!?」

「こいつは暴走した経験がない。今のお前を見て、龍力が使えることを羨んだのだろう」

「…………」


睨むように、レイズはスレイを見る。

スレイの表情は打って変わって、再会した時のような顔ではなくなっていた。

ただ黙って虚ろな目をしている。どこを見ているのかも分からない。


「結果論だが、お前は社会復帰できた側だ……それも含めての言葉だろう。本当に愚かだと思う」


気を遣ったのか、愚かのタイミングだけ、小声になったリゼル。


「……が、お前の兄にとっては、それが全てなのだろう」


旅をして、現状を知る前だったら僕も殴っていた、とリゼルは話を結んだ。


これでも、リゼルは丸くなったと思う。

出会ってすぐの彼なら、こんな説明なしで「黙れ」と切り捨てていた気がする。


「リゼル……」


彼はコーヒーを飲み干し、立ち上がる。

その瞳には、スレイは入っていない。レイラに素早く目配せをする。


「帰る。邪魔をした」

「はい……お邪魔しました……」


レイラ、マリナ、ミーネは、スレイに聞こえるか聞こえないかくらいの声量で挨拶を言い、帰っていく。

部屋に残されたのは、レイズ、バージル、スレイの三人となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ