ー龍派ー
レイズたちは宿を確保し、室内でこれからのことを話し合っていた。
宿は幸運にも二部屋取れた。数日滞在可能な宿だ。
カーペットに安そうなテーブル、ベッドもなく、布団である。
設備も古く、快適空間とは程遠いが、予算には限度がある。それに、どうせ日中は道場で過ごす。寝泊りできればそれで構わない。
「やぁっと落ち着ける……」
「あぁ。さすがに疲れた……」
レイズたちは、長旅の疲れに向き合いながらも、床に道場の冊子を広げていく。
彼らは宿を探す際に、道場からパンフレット的な冊子を数冊貰っていた。
そこから自分がお世話になる道場を選ぶことになる。
「さて、いい所があればいいけど」
「うん。そうだね」
レイズ、ミーネは初心者向けではあるものの、ある程度レベルの高い道場を探している。
レイラ、リゼル、バージルは中級者向け。マリナは中級者か、やや初心者向けのものを探している。
合わなければ移ることも可能だが、初期費用としてある程度まとまった金額を取られる。
選択ミスは回避したいところだ。
「……分かっていると思うが、道場は龍の属性ごとに分かれている」
「みたいですね。まとまっている施設はありませんでした」
そう。
シャンバーレにある道場は見て回った限りだが、龍の属性である『龍派』により分かれていた。
炎龍なら炎龍派、水龍なら水龍派など、だ。
並びに規則性はなく、土地が空いていた場所場所に道場を建てた感じだった。
「別行動、ってことか?」
レイズはそうリゼルに聞いた。
道場が龍派で分かれている以上、普通はそうなる。
「そうだな……が……」
心配事がある様子で、リゼルは別行動の案にあまり乗り気ではなかった。
別行動となれば、男の多いこの町で、レイラを一人にさせることになる。
マリナは即道場に入ることは難しいだろうが、ミーネは道場に出入りすることになる。レイラと同じように、あまり一人で行動させたくはない。
(僕たちはまだ弱い……万が一の時、対応できない……)
シャンバーレの犯罪率は低いというものの、ゼロではない。
レイラと別れて一人で、となれば、そちらが気になってしまい、リゼル自身も特訓に集中できないだろう。
「リゼル。私たちは大丈夫ですから」
視線を上げると、レイラと目が合った。
その表情は、「心配するな」と言っているように彼には見えた。
「……そうか」
「……そうだよ。ここが希望なんでしょ?」
「……あぁ」
「わたしも、やるから」
「……すまない」
自分の懸念を感じ取られたのか、新人の彼女たちにまでフォローさせてしまった。
彼女たちはここまで付いてきてくれた。不安要素はあるが、遅かれ早かれやってくる事案だ。
メンバーそれぞれを信じよう。
ふと、レイズが疑問点を漏らした。
「……そもそも、入れてもらえるのか?」
「は?金はある程度支給されてるだろ?」
騎士団から費用は出ている。
纏まって出ているため、レイズたちが見たことないような金額だ。しかも、それを持ち歩いている。
正直、気が気でなかった。
「いや、定員とか、入る時期とか決まってないのかな、って」
「あ……」
強者が集まる町。武道の町シャンバーレ。
金があれば受け入れはしてもらえると高を括っていたが、人員的、事務的な都合で入れる時期が決まっている道場もあるかもしれなかった。
だが、良くも悪くも道場は一つではない。
「……道場は腐るほどある。入れてもらえなかったとき考える」
「はいよ」
考えていても仕方ない。
とりあえず、自分の龍派の道場と、そこまでのルート、道中にある店舗付近にメンバーが通う道場があるかぐらいは確認しておいた方が良いだろう。
「明日は道場とその他諸々を確認する。今日中にパンフに目を通しておけ……あと、町の地図の把握も必要だ」
「オッケー、そうするか」
「そうですね!」
一応の方針が決まり、レイズたち男性陣は部屋に戻ろうと立ち上がる。
「…………」
リゼルが戻る。マリナはソワソワしていた。
疲れはないが、まだ調子が戻ったわけではない。指示には従うが、要求に応えられる自信はない。
「マリナは休んでいてくれ。どこが気になるか目星を付けておけ」
「……分かったわ」
リゼルからの待機命令。出歩かなくて一応は安心した。
だが、いつまでも待機している訳にはいかない。体力を元に戻さないと。
(絶対に、遅れない)
仲間たちは、進んでいく。
救われたことに加え、実力まで認められ、拾ってもらえた。
この機会、逃して堪るか。
マリナは静かに拳を握りしめ、パンフレットに目を落とすのだった。