ー武道の町シャンバーレー
武道の町シャンバーレ。
「はぇ~!凄い熱気だな!」
血の気が多い人間が多いせいなのか、シンプルに南に位置しているせいなのか、やや暑い。
龍力者が集まる武道の町と聞いていたため、漠然と想像はしていたが、想像を超えていた。
数は少ないが龍の属性に沿った道場があり、飲食店やその他の店が立ち並ぶ程度だと思っていた。
しかし、実際は違った。
大きな道場が数多く立ち並んでいる。
生徒の取り合いになる原因だと思うのだが、外から見た限りでは、それぞれ強みを持ち、ターゲットを絞っている様子だった。
シンプルなもの、トレーニングだけでなく、勉学にも重きを置いているもの、女性受けが良さそうなお洒落なデザインのもの、凝ったデザインのもの、機器を売りにしているものもあって、上手く生徒を取り入れようとしている努力が窺える。
レイズ、バージルはその努力に心底感心している。
「……すげぇな。似た道場がないぞ」
「良く考えるな……」
被らないように創意工夫がされている。
属性別で被ったりはあるものの、同じ属性でのコンセプト被りは限りなく少ない印象を受ける。
「で、肝心の飯は……」
テラス席を見る限りだが、飲食店ではスタミナ抜群な料理が提供されている。大盛りの白米、大きな肉、大きな丼。
店舗から流れてくる煙は、非常に魅力的な香りをしている。
他の町と大きく違うのは、(当たり前だが)洋服店がなく、道着店が多いことだ。
あと、町全体が男性が多い。女性向けの道場もあるため極端に少ない訳ではないし、飲食店の従業員は女性もいた。だが、全体の数としてはやはり少ない。
レイラ、マリナ、ミーネが行くことができそうな道場は一気に絞られたことになる。
シャンバーレを見て回る途中、屋外で特訓している水龍の道場があった。ガチムチの男たちで、上半身裸だ。
特訓内容が分かるかも、と離れた位置から観察していたが、はやり凄い。
完全に無意識に、レイラは呟いていた。
「あれは……」
「……気付いたか」
レイラ、リゼルは少々衝撃を受けた。
特訓中の彼らは、武器を持たずに流れを確認していた。見ていてわかるが、纏っている龍力が滑らかに動いている。
ゆっくりな動きは当然だが、緩急を付けた動きでも、それは同様だった。
自分たちとは、明らかに違う流れだ。
(……滑らかだ。僕たちから見れば、不気味なほどに)
通常、龍力を使う際は、力が必要な部位に龍力を集める。
自分たちは龍力を高め、各々が使っている武器にその力を纏わせて戦っている。
当然、身体全体を覆ってはいるが、濃淡はある。そういう意味で、武器に多めに龍力を回している。
そして、攻撃や防御の際に、瞬間的に移動させる。
その移動は基本、突発的だ。戦闘中故に、急遽想定した流れと違う動きをする必要だって迫られる。
そうなったとき、どうしても『遅れ』が出てしまう。これは、『どうしようもない事象』だと思っていたが……
特訓をしている彼らの龍力移動は、次の手、そのまた次の手そのまたを見越したかのような動きだ。
戦闘中ではないため龍力の大きさ自体は驚くほどではない。
しかし、龍力の移動・配分は素晴らしい。
レイラやリゼルでも『ぎこちなさ』が出てしまう。
「……(動きが)綺麗だな」
「バージル……そんな趣味が……」
「ん……?」
町に着き、気持ちに余裕ができたマリナに白い目で見られる。
最初は意味が分からなかったが、理解した瞬間即座に否定する。
「違う!『動き』が綺麗だと言ったんだ!!」
「えぇ~~?」
ガチムチの男に興奮する趣味はない。
「そうだぜ、こいつには好きな「あ~~!!あ~~!!いい天気だな~~!?」
レイズの言葉を遮り、強引に話題を変える。が無理がある。
彼らの離れた位置で、レイラとリゼルは視線を道場に向けたまま話している。
「『質』のレベルが違うな」
「えぇ……我々のは、良くも悪くも力を扱っているだけの状態……」
「……見られてもいい屋外であれをしている……それは、見られても困るものではないということだ」
「えぇ。彼らにとっては、当然のことなのかも……でも、疎かにできない。だから、欠かさない……」
シャンバーレは、騎士団と交流はない。むしろ嫌われている。
鎖国の状態にあるわけではないが、休暇中に身分を隠して行く人間は団内にいない。
中でどのような特訓が行われているかなど、謎に包まれていたのだ。
(ゴウザの言葉……流石はここの人間、か……)
ゴウザは自分たちはこれ以上強くなれないかもと言っていたが、それは「龍魂と向き合っていないから」だそうだ。
その意味はさっぱり分からないが、その言葉に重みが増した。
だが、焦るな。今から学べば良い。
「とりあえず、拠点の確保ですね」
「あぁ、宿を探すぞ」
マリナの疲れはとりあえず大丈夫なようだが、体力、精神、龍力面はまだ不安が残る。
拠点の確保は大事だ。
「……行くぞ」
「お!行くらしいぞ!!」
レイラ、リゼル以外の仲間に問い詰められていたバージルは、この時間から解放されることに喜んだ。
拠点を決め、学ぶ先も決めたら、本格的に特訓開始だ。
絶対に、掴んで見せる。
リゼルは最後にガチムチ男たちを一瞥し、宿探しに歩を進めるのだった。