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龍魂  作者: 熟田津ケィ
ー圧倒的な差ー
134/689

ー岩の剣ー

トライホーン・ビーストの視界が晴れ、回避一択から、通常の戦闘に戻った。

レイズたちは攻撃を繰り返している。しかし、なかなかトライホーン・ビーストは怯まない。

どれだけ攻撃を叩きこんでも、どれだけ龍術で皮膚を切り裂いても、手ごたえがない。なさすぎる。


「痛!!」

「バージル!平気ですか!?」

「あぁ!……まだ、だ……!」


戦闘が進むにつれ、疲労感からか、回避できずに被弾することが増えてきた。

戦況は、かなり危うい。


「……おい、リゼル」


トライホーンから少し距離をとり、レイズは彼に話しかける。


「何だ」

「俺たちの攻撃が……全っ然、通用してない気がする」

「……同感だな」


ダメージは、ゼロではないはずだ。

実際、皮膚を割き、体力をじわじわ減らしているのは確かだ。が、その体力はどれくらいだろうか。

血が出ているが、序盤に付けた傷からはもう血が止まっている。ダメージが小さすぎる証拠だ。

自分たちの攻撃が浅すぎるのだ。


「で……続けるのか?」

「…………」


リゼルは、後方にいるミーネとマリナを見る。

彼女たちも、トライホーン・ビーストに勝てないことを察したようだ。

背を向けないものの、じわじわと距離をとっている。


「……あいつらが逃げ切るまでは」

「でも、あいつらが別の敵と遭遇するかもしれない。危険だぞ?」

「…………」


それはそうだ。今、マリナを守れる人間はミーネしかいない。

彼女は彼女で努力を続けているものの、この環境で一人で戦い抜くことはできないだろう。


ここでメンバーを削りたくないが、仕方ない。

小さく舌を打ち、案を出す。


「……一人応援に向かえ」

「俺が行く!」


バージルとレイラは今も前衛で戦っている。

レイズが振り返ろうとしたその時だ。


茶色い光がトライホーン・ビーストを包んだ。


「は!?」

「え……?」


それは一瞬だった。その出来事に、その場にいる全員が目を疑った。


「岩の……」

「剣……?」


トライホーン・ビーストの身体を、大きな岩の剣が貫いたのだ。

茶色い光の正体は、紋章だった。地上には、地龍の紋章が描かれている。


「~~~~~!!」


トライホーン・ビーストは苦しそうなうめき声を上げる。

そして、その剣から逃れようともがく。が、剣は身体を貫いており、逃れられる状況ではない。


肉が剣に刺さっていく音が響く。

あまり耳に良くない音だ。


「う……!」


レイラは思わず口元を押さえ、目を背ける。

これを直視できるほど、慣れていない。


「おい、動きが……」


トライホーン・ビーストはしばらく暴れた後、動かなくなる。

死んだかと思ったが、呼吸音が聞こえる。まだ生きているようだ。


「しぶとすぎだろ……」

「だれが……?」


剣を構えたまま、呆然と立ち尽くすレイズたち。

どうしていいか分からず、ただぼうっとしていると、足音が近づいてきた。


「ふぃ~オイラもまだまだだな」


その方向へ目をやると、坊主頭、道着を着た男(歳は二十代半ばだろうか)がこちらに向かって歩いているところだった。

レイズたちは一斉に身構える。敵か。味方か。


「ん?」


以外にも、男はそこで初めてレイズたちの存在に気付いたようだった。


「オメェらは?」

「……あ」


少し威圧感がある声。

返答したくとも、威圧感に圧され、声が口から出ない。

それに、声を出そうにも、何を言っていいか分からない。


「き……旅の途中なんだ」


バージルは「騎士団」と言ってしまいそうだったが、何とか堪え、当初の予定通り旅人であることを伝える。


「お~!旅の人か!」


坊主頭の男は笑顔になり、握手を求めてくる。

ファーストコンタクトのあの表情は消えている。意外にも、人当たりは良さそうだ。


「不遇だったな~こいつに見つかるなんて」

「あぁ……助かった……」

「お~俺たちは別に『何ともない』が、旅の人にはキッツイ相手だろうさ~」


何ともない。この言葉に、リゼルは期待を感じる。


「剣が消えれば、またアレは動き出す~さっさと行きな~?」


語尾を伸ばす、特徴的な喋り方だ。

グレゴリーを連想するが、受ける印象は全く違う。

奴は小バカにしたような言い方だが、彼はのんびりとした口調だ。


「……シャンバーレの人?」


レイズは探るように聞いてみる。


「そうだよ~日々修行中だ~」

「へぇ、そうなのか」


人がいてくれて本当に助かった。

それに、トライホーン・ビーストを一撃で瀕死にさせる威力が出せる龍力者。

バージルは恩人の名前を聞く。


「あんた、名前は?」

「オレか~?オレはゴウザ。地龍見習いさ~」

「見習い!?」


あの威力で「見習い」とは。

シャンバーレには、強くなれる秘密がありそうだ。


「本当に助かったぜ。ゴウザさんよ」

「構わないさ~」

「俺たちはシャンバーレ……というか、旅をしててな。次の目的地がシャンバーレなんだ」


自分たちは、あくまで旅人。

シャンバーレが一旦のゴールだが、別の町にも行く予定があることをしっかり仄めかす。

ゴウザが言葉の裏を読むかは分からないが、リスクは消す。それに、今後の自己紹介の練習になる。


「おぉ~強いのはいいことだ~騎士団はアテにならないからな~」

「……あぁ……そうだな……」


す、と視線を反らすレイラ。目の鋭さが増すリゼル。

「暴走すんなよ」と思いながら、バージルは続ける。


「で、そのシャンバーレは遠いのか?その、あんたがいるってことは……近かったり……?」

「ん~あの距離を近いと感じるか遠いと感じるか、だけどな~」


近くもなく、遠くもない。

何にせよ、良い位置まで来ていると言っていいだろう。

ヴァイス平原も、終わりが近い。


「……少し、話せるか?」


バージルが終わりに思いを馳せていると、リゼルがゴウザの前に歩み出た。

真剣な眼差しだ。ゴウザもその表情に心動いたのか、受け入れてくれた。


「ん~いいぞ?」


リゼルは離れている二人を呼ぶように指示し、ゴウザに飲み物を渡す。


「……助かる」

「あんたは、本気みたいだな~」


どこか嬉しそうに、口角を上げるゴウザ。

それを見て、リゼルも僅かに笑う。


この可能性を、逃してたまるか。

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