ーヴァイス平原の道のりー
レイズたちがヴァイス平原へ足を踏み入れてから、少しの時が経過している。
景色を楽しめたのも最初の数分だけだった。
後は、代わり映えのない景色が延々と広がるばかりだ。
良くも悪くも『慣れ』というのは恐ろしいものだ。
平原へ足を踏み入れてからまだ浅いということもあるが、魔物との戦闘は、まだ苦戦しなかった。
しかし、平原故に、一体に見つかってしまうと、その戦闘中の音に引き寄せられ、複数体寄ってきてしまう。
そして、大所帯との戦闘へと広がってしまうのだ。それが少し厄介だった。
ただ、魔物単体で見れば、龍魂初心者のレイズ、ミーネでも十分に戦えているレベルだ。
そこにレイラやリゼル、バージルが加わるのだ。余程の不幸が重ならない限り全滅はしないだろう。
十分に戦えないマリナの保護を踏まえても、戦力的に不足はない。
魔物の種類は、植物系、鳥系、昆虫系、獣系などと豊富だ。
大自然故に様々な種類の魔物が共存している。
「ふぅ……」
レイズたちは、こまめに休憩をはさみながら進んでいく。
風がよく通り、その辺の丸太に腰かけているだけでも気持ちいい。
風景には慣れてしまっているが、この環境自体は良いものだ。
「いい気分だな!」
「ほんとね。病院より全然良いわ……」
草花が風に流され、サワサワと音を奏でている。
入院していた病院にも窓があったものの、ここまで風は通らない。
自然のありがたみを深く感じる時間だ。
「……景色、マジで変わらないな」
「……迷ってないわよね?」
バージルの呟きに、マリナは辺りを見回す。
当然だが、見えているのは大自然だけだ。
「方角は間違っていないはずです。最短距離かどうかは怪しいですけど……」
シャンバーレは、南に位置する町だ。
方角さえ間違わなければ、大丈夫なはずである。
「何か目印でもあれば良いけどな~」
「……なんにもなさそうね」
道中に、小屋などは一切なかった。
実際に歩いて痛感したが、地図に載るような目印は確認できない。
それだけではない。
「……人もいないな」
自分たちと同じような旅人とも遭遇しない。
草原に入る前までは少なからず人とすれ違うと思っていたのだが、今のところゼロだ。
「……好き好んでシャンバーレに行くやつは少ない。武道の町だぞ」
「なるほど」
リゼルは、期待を捨てるように言う。
確かに、普通に生活していれば関わることのないジャンルだ。
『あの日』以降も、それは変わっていない。一般的に接点がないからこそ、可能性を感じているのだ。
「商人でも通れば乗せてもらうのにな」
商人の移動手段は、殆どが馬車だ。その方が圧倒的に速い。
「言ったはずだ。基礎体力向上も目的の一つだと」
「……冗談だよ。分かってるって」
正直忘れていた。バージルは、慌ててリゼルをなだめる。
マリナのリハビリの件もある。
彼女は戦闘に参加しないが、歩行はできる。徐々に体力を戻すためにも、必要な過程なのだ。
「…………」
バージルは南を向き、眺める。
武道の町シャンバーレ。そこに、自分たちが今必要としている情報があるのだろうか。
なかった場合、どうすればいいのだろうか。
(いや、考えるな……行くしかねぇんだ)
不安に思いながらも、進むしかない。
任務であるし、他に手段も思いつかないのだから。