龍魂の技術
あれ以降、戦闘は数回行ったが、全てバージルが片付けた。
その他は特にトラブルはなく、下山はほぼ終わった。
木々が生い茂っていた風景からガラリと変わり、今は街道と草むらが広がっている。
足元も傾斜から平地へと変わり、だいぶ歩きやすくなった。
「取り敢えず一段落だな」
「あぁ……結局、全部任せちまったな」
自分も戦おうと思ったのだが、自我と龍との意識バランスがどうも上手く行かない。
それに加え、戦いで動き回るなど、ハードルが高すぎる。とてもではないが、戦力にはなれなかった。
「気にすんな。いきなり戦闘中ってのは走り過ぎた」
自分と戦った時は、素晴らしい動きと力だった。
そのイメージが強かったために、戦闘で慣れさせようとした自分がいる。
実際、その方が数倍練習になるし、手っ取り早い。
だが、当時レイズの意識はかなり龍に取られていた。
よって、適切な指導方法ではなかったのが現実。
「この辺りで練習しようぜ」
「あぁ。分かった」
障害物も人の往来も少ない。見かけたら、控えたら済む。
周囲を散策し、丁度いいスペースを見つける。街道から少し離れた、土の露出が多い場所。
レイズの精神的にも、草が生えていないのは大きいだろう。
「お、いい感じだ」
バージルは荷物を隅に置き、構える。
「…………」
レイズもそれを見て、真似る。
構えは自分がリラックスできるポーズで良いのだが、自分の真似をするのがNGなわけではない。一々突っ込むだけ野暮だ。
「まず、自分の龍を意識しろ。そんで……」
バージルは龍力を高めていく。
「……力を引き出す」
次第に、髪や衣服がなびき始める。
これは、彼の周囲に風が展開している証拠だ。すぐに、風を切る音が聞こえ始めた。
そして、不思議な圧力も感じる。紛れもない龍圧であるが、今のバージルに殺気がないため、レイズに精神的負荷もない。よって、嫌な気配とやらを感じず、素な状態で見ていられる。
「おぉ……」
レイズも同じ空間にいるが、受けている風は別物。明らかに、バージルの髪や衣服の流れている方向とは別。
従って、彼の周囲の風は自然のそれではないことが分かる。
「このままでも、一般人よりも身体能力は高くなる」
武器も持たず、殺気もない。が、龍力を身体に纏わせることで、身体能力が増強されるのだ。
だから、レイズ自身も、信じられないスピードが出せるし、パワーも引き上がる。
「へぇ……」
「これが、ドラゴン・ソウル。分かってると思うが、風龍の力だ。お前のは、炎龍の力だな」
「…………」
炎の夢を思い出し、無意識に自分の手を見つめる。
忌まわしい記憶。
周囲を無差別に焼き尽くす炎の龍。
曖昧な記憶にはなるのだが、グリージでの出来事がフラッシュバックする。
燃え上がる畑と人の悲鳴。空間を舞う紅蓮の炎。
龍力には、それだけの力があるのだ。
「ふ~~……」
レイズは頭をかくふりをして、顔を隠す。
「今は恐怖心が大きいと思うが、龍力は便利なものでな。俺たちの生活の一部だ」
「そう、だな……」
確かに、龍魂は生活の一部として大いに役立っていた。
火を起こしたり、明かりを灯したり、電気を流したり。当たり前にそこにあった。
龍魂がない生活など、到底考えられない。
「……この機会に、体験しとくか」
「え?」
「俺は前、お前に『燃えはしない』って言ったよな。その根拠を見せてやる」
そう言いながら、バージルは杖を振りかぶる。
「ちょ、待っ……!」
レイズは慌てて身構える。
彼は、明らかに自分を攻撃しようとしているのだ。
「おらァ!!」
「ッ!」
ブオ、と強烈な風の塊がレイズを貫く。
咄嗟に腕を十字に組み、効果があるか分からないガードを行うレイズ。
しかし。
「え……?痛く……ない……?」
身体全体を包むほどの、巨大な風の塊。
それが通ったのは分かるが、痛みを全く感じなかった。
実際、血一滴すら流れていない。
「ぇ……?ぇ~~……?」
自分の勘違いか?とも思ったが、それはない。
だって、確実に風の塊を受けたのだ。ダメージこそないが、別次元の風が通り抜けたことくらい、分かる。
「……『攻撃対象』以外に危害は与えない。だから、お前にダメージはないはずだ。だから、森の中でも炎龍の力は使える。ただ、特訓は必要だぜ」
『攻撃対象』以外は無害。だが、それにも特訓が必要となる。
暴走したときに畑を燃やしたのも、バージル戦で地面が焦げたのも、まだ力のコントロールができていないため。
龍力を引き出しつつ、そちらの特訓も必須となる。
「な、なるほど……」
「技を打つときは、龍力を武器に寄せて、濃度を少し高めるんだ。それで、叩く」
「こうやってな」と、バージルはもう一度龍力を高め、杖に龍力を流していく。
「おぉ……?」
雰囲気で分かる。バージルの杖から、非常に強い力を感じる。
これは、龍力が彼全体だけでなく、杖にまで行き渡っているためだ。
だから、技を出す際は、より龍力を高めないと、全体的な龍力量が下がってしまう。
殴る際に力を込めるイメージで、龍力も高める必要があるのだ。
「……この状態でこれで叩けば、龍力で攻撃ができる。そんで、風属性も付与できる」
「なるほど。風龍だから、か……」
「そうだ。言い方を変えれば、俺は風属性しか扱えない。他の属性も勉強して、条件が整えば扱えないこともないけど、コスパは悪ぃ」
「へぇ……」
と返事はしたが、レイズの頭から湯気が上がっている。それも、上空に「???」のマークが見えそうなくらいに。
そのくらい分かりやすく、彼の思考は止まっていた。
「何となくでいい。一気に言っても分からないからな」
「……助かる」
「まずは、自分の龍を強く近くに感じることからだ」
レイズの特訓が本格的にスタートし、彼は炎龍の力と向き合うのだった。