ー平原ー
いこいの村コポマを通過し、シャンバーレに向かう平原。その平原を、ヴァイス平原と言うらしい。
とても見晴らしがよく、いい景色だ。木はあまり生えていない。
下腿の半分以下の高さ。そのくらいの雑草がずっと生い茂っている。
地上の緑と、空の青が凄く綺麗に見える。
また、風も吹いており、レイズたちを心地良い気分にさせた。
「……見晴らしが良い分、魔物を見つけやすいが、魔物からも見つかりやすい」
「了解だ。隠れるのも無理っぽいしな」
草花は自生しているが、背丈の高い植物は見つからない。
もし遭遇すれば、戦闘は必至だ。
「行くぞ。体力には注意しろ」
「……はい」
リゼルが戦闘を歩き、レイズたちはそれに続く。
ちょっとした遠足気分だ。浮かれている場合ではないのは分かっているが、非公式の裏方の仕事ということもあり、道中はまだ気楽だ。
「マリナ、調子はどうです?」
「うん、普通にする分には大丈夫。でも、剣を握って振るとかはまだ難しそう」
手を握ったり開いたりしてみるマリナ。
握ったときの力の入り具合が、以前より明らかに落ちている。
検査結果の数値からも分かるように、以前のように戦えるまでは時間を要する。
「……けっこう歩くみたいよ?」
よそよそしさはあるが、ミーネは彼女に話しかける。
マリナは仲間だ。仲良くなりたい。
「うん、その時は言うわ。ありがとう」
「……ども」
マリナは笑顔を見せる。
その顔を見たとき、無性に恥ずかしくなった。ミーネは結んだ髪の毛先をいじりながらそれを誤魔化す。
彼女たちの少し前で、レイズは歩きながら伸びをする。
「寒くもなく、暑くもない。過ごしやすいな。風も気持ちいい」
「ありがたいぜ。これくらいが丁度いい」
バーバルも同調する。北の寒さはきつかった。
ふと、フォリアの顔が浮かび、バージルは慌てて頭を振る。
(なんであいつが……)
なぜ彼女の顔が浮かぶのか。全く意味が分からない。
それと同時に、あの夜の話を思い出した。
フォリアや『ニヒル』と名乗る者に知られないよう、事前な形でレイラやリゼルたちに知らせる必要があるのだが、高難度だ。
それに、騎士団としても手出しはできない状況。グレゴリーの件も、龍魂の研究のこともある。
ニヒルの存在をにおわせたところで、先送りにされるだろう。
正直、事後報告でもいいような気がしてきた。
(……むずすぎる)
仲間たちは、クラッツから何も聞いていないのだろうか。
リゼルやレイラは聞いていそうなものだが、何も言ってこない。
今は任務に集中しろ、と言うことなのだろうか。
「バージル?難しい顔して」
「ん?あぁ、別に」
「……あいつのことでも考えてたのか?」
レイズは本当に、本当に無意識に「あいつ」と言った。
「な!?フォリアなんか考えてないって!」
フォリア、と言う言葉を聞き、レイズは憎たらしい表情に変わっていく。
「え?あ~~~……フォリアなんて一言も言ってないけどなぁ……?」
「あ……」
こいつ、ハメやがった。
慌てて振り返ると、レイラは満面の笑みだった。ミーネは微笑み、マリナは頭の上に「?」が浮かんでいる。
前を歩くリゼルは、多分無表情だ。
「おいテメー!!それは卑怯だぞ!!」
トマトより真っ赤な顔になるバージル。レイズの胸倉を掴み前後に揺する。
「待てよ!?そっちが勘違いしただけだろ!?」
「んだよ?だったら、お前が言うあいつって誰だ!?」
揺さぶられて、目が回っているレイズ。
ゴニョゴニョとその人物を漏らす。
「……コポマの道具屋のジジイ」
「なんでだよ!?」
「いや、あれで食えてるのかなって……」
確かに、道具屋のラインナップや在庫は絶望的なものだった。
が、バージルはそういうことに気をかけたことはない。店主の背景など、本当に興味がない。
「くっそ……自爆かよ……」
「……フォリアも引き抜きます?」
「!」
レイラは微笑みながら、バージルに声をかける。リゼルが身を固くした気がしたが、気のせいだろう。
素晴らしい提案だが、それを快諾する気分にはなれない。
「……勘弁してくれ」
断腸の思いで、彼はその提案を拒否するのだった。