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龍魂  作者: 熟田津ケィ
ー圧倒的な差ー
127/689

ー手負いの男ー

時は戦闘後数十分後まで遡る。

場所は、地図にすら載らない、小さな名前もない洞窟内。


「がぁぁぁぁぁぁあ……いてぇ~ッ!!」


ベージュの上着に、黒いぴっちりしたパンツ。だがそれも、今は血だらけで赤く染まっている。

殺人鬼グレゴリーは、何とか身を隠せる場所に逃げ込み、もがいてた。


傷が痛む。早急に手当てが必要だ。

あと、肉だ。肉が欲しい。脂がのった上質な肉が食いたい。


歩いてきたであろう道には、血痕が残っている。

これでは、血の匂いにつられ、魔物が寄ってくるかもしれない、が、今のグレゴリーに血の処理をする余裕はない。

万が一襲われても、この区域の魔物であれば、手負いでも返り討ちにできる。



「クッソォ……あのガキャ~……」


半暴走状態の捨て身の覚悟で戦ってくるとは。

暴走状態と自我の間。少しでも狂えば龍に精神を持っていかれるところだ。

なのに、あの小娘はそのギリギリを攻め続けた。そして、自分をここまで追い詰めた。


「ぜってぇ殺す……何があっても俺が殺す……肉を裂いて……四肢をブチ斬って……」


大きく呼吸をしながらも、自らの願望を呟く。


「ハァ……ハァ……」


もがいて、もがいて、もがいて、更に数十分は経っただろうか。

『痛みに慣れた』という表現は変だが、グレゴリーは何も感じなくなってきていた。

そのことで、心に余裕が生まれる。よし、今のうちに体力を取り戻してやる。

そのために、岩陰にもたれかかり、呼吸を整える。ゴツゴツしている寝床になるが、ベストポジションを探すために色々身体を動かす。


ようやくベターポジションを見つけたその直後。

人の気配と、足音が近づいてきた。誰か来る。

足取りはゆっくり。だが、確実に向かってくる。


「クソ……こんな時に……」


ベターポジションに別れを告げ、外から見えにくい位置に隠れるグレゴリー。

が、無駄だ。こちらですよ、と案内するように血が続いているのだから。


足音は洞窟の入り口で止まる。


「お~い。大丈夫か~?」


その人影は声をかけてきた。

知っている声だ。


「なんだ……フリア……か」

「おぉ。グレゴリー、生きてるな」


全身黒コーデで、長髪のロン毛の男。フリア。

どうやら自分を探しに来たようだ。


「大勢騎士団をやったみたいだな?」

「あぁ……だが、言われた通り殺してないぜ。一般人にも見つかってないはずだ」

「ん~?」


フリアは腕を組み、あからさまにうざったく首を傾げる。

その態度にイラつきながらも、彼に疑問を投げる。


「なぁ……なぜ殺さなかったんだ?その方が……恐怖心を煽れるぜ。何より、楽だ」

「俺たちの目的は、グランズをあぶりだすことだ。死者を出せば、ヤツは尚更出て来なくなる」


まだ実験段階だ、我慢しろ。とフリアは続ける。


「それに、ターゲット以外を無暗に狩るのは(俺の)趣味じゃない」

「ハァ……ハァ……そういう……モンか……?」

「あぁ。グランズは今一人じゃない。だから、のうのうと隠れていられる。国の再建を娘に押し付けて、な」


フリアは、ギリ、と歯を噛みしめる。


「……まぁ、アンタがそう言うならそれでイイさ……で、俺はいつ殺しに戻れる?」


グレゴリーにとっての最優先事項は、殺しの再開だ。

でないと、あのガキどもを殺せない。


フリアは少し視線を上に上げ、考える。

そして、こう言った。


「そうだな……『来世』かな」

「!?」


フリアは刀を構え、目にもとまらぬ速さでグレゴリーを斬った。


「は……?」

「……手負いを殺るのは(漁夫みたいで)嫌なんだがな」


傷口や口から血を吹き出し、グレゴリーは倒れる。

その顔は、驚き以外の感情がなかった。


「な……んで……」

「あ、仕留めそこなったか。ごめんごめん」


フリアがグレゴリーの傍にしゃがみ込み、微笑んだ。


「ん、用済み」

「…………」


グレゴリーは驚いた顔のまま動かない。


「あ、死んだか」


「よっと」と言いながら立ち上がる。フリアは抜いていた刀を振り、血を払い飛ばす。

彼は鼻歌を歌いながら、その名前のない洞窟から去っていった。


団員が彼の死体を見つけるのは、もう少し後になる。

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